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「ふふふっ、先輩、湊先輩!来ちゃいました」

「え、羽華?なに、…来たくなかったんだけど」

先輩の教室のドアを開けた私の後ろで、洸くんが私の手を引いて不機嫌になった

中を覗けば窓の近くで裕先輩と一緒にいた湊先輩が驚いたようにこちらを見ていた

「羽華?」

「先輩、さっき裏庭眺めてましたよね!その時心なしか先輩赤く見えたから…」

「むふっ、羽華ちゃんそれはね?」

「あ、裕先輩!お水、ちゃんと先輩に飲ませてますか?熱中症とか?……大丈夫ですか?」

そっと湊先輩に近づいて、背の高い先輩に合わせて背伸びしておでこに触れる

んー、大丈夫そ?

先輩の顔を覗けば、近くで目があった

「せんぱ、」

「………」

「先輩?」

顔を覗き込めばみるみる、赤くなる先輩

ええええ!

「え、え?大丈夫なんですか、これ!きっとコスプレなんて痛いこと……えっと、慣れないことするから熱でたんですよ!」

「羽華ちゃん…痛いと思ってたんだね」

「えー、なにそれ!俺も見たかった」

私達の様子を見ていた裕先輩と洸くんが近づいてきた

「つーか、羽華近いよ!俺のところおいで!」

「やだやだ!湊先輩がなんかおかしいんだもん!」

私の腰あたりに腕を回して後ろから抱き寄せてくる洸くんに反抗して、私も湊先輩の腰あたりにひっつく

「湊先輩!ほんとに、だいじょう、」
「離れて」

「え?」

喋らない先輩が心配で声を掛けると、同時に先輩がなにか話した

「先輩、なんて……」

「離れてって言った」

先輩に引っ付いていた私の手をサッと払うと、私の後ろにいる洸くんをチラリと見てから、裕先輩の隣まで歩いて行ってしまった先輩

なんだか、その目は少し冷たい目で思わずなにも言い返せなくなる

「せんぱ、」

「…先輩、先輩しつこい」

横目で見られて、面倒くさそうに返される

「ご、ごめんなさ」

「湊、やめな」

裕先輩が湊先輩に何か言ったけれどそれも聞こえないほどに、久しぶりに冷たく返されたことがショックだった

当たり前が最近鈍くなってたのかも

きゅっと腰に回っていた腕の力が強くなった

「なんだよ、その態度?せっかく羽華が来てくれたってゆーのにさ」

洸くんが私の頭を撫でながらいつもの調子で湊先輩に話しかけた

「……」

「無視かい」

裕先輩の隣に立ったまま、顔を背けてこちらを見てくれない先輩

私のせい?

でも、さっきまでは普通だったのに…

「湊先輩、なにか…」

「帰って」

「え?」

「だから、帰って……目障りだから」

「……っ」

チラリと私に視線を合わせた湊先輩は、苦しそうに眉を潜めて低い声で言った

「羽華、行こ?」

「え、あ、うん。そうだね、えっとじゃあ、せんぱ、……これからお使いなんで失礼しますね!」

「あ、羽華ちゃん!」

不自然に思われないように最後は笑顔で手を振って教室を出た

しばらくボウッとしてしまう私の手を引いて、洸くんは目的のデパートまで歩いてくれた

「なんだよ、九条の奴、……ガキかよ」

お買い物をしてる時も洸くんは私の代わりのようにプリプリと可愛く怒っていて、なんだか心が和らいだ

「洸くん、ありがとう……でも、きっと私が何かしちゃったんだよ」

「違うよ、あれは、きっと……」

何かを言い掛けて洸くんは黙ってしまった

そのまま黙って私の手を引いて学校までの帰り道を歩いていく