賑やかな三年生の教室

湊先輩に空き教室以外で会うために、通いつめることもしばしば

今日もこっそり覗いたつもりが…

「なあああああっった!!」

「…え、なに?変な鳴き声聞こえたんだけど」

心底引いたようにこちらを見てくる湊先輩

こっそり、覗いたつもりが目に飛び込んできたあまりにも美しすぎる光景に声が出てしまった

私に気づいた湊先輩は、「うわ…」と言って一歩後ろに下がった

気にせずに先輩の元へ駆け寄る

「て、てててん」

「うん」

「天使ですか?」

「いや、執事ね?てかあんまり見ないで」

そう言って、私の顔を手のひらで覆った先輩の耳は赤く染まっていた

「むふふっ!羽華ちゃん!どーでしょう、湊の執事は!」

「裕先輩っ!いい仕事してますっ、もう食べちゃいたい」

「はぁ……脱ぎたい、逃げたい」

ウンザリ顔でネクタイを緩め始めた先輩の手を掴んで、背景になるように窓の近くに立たせた

先輩が脱いじゃう前にカメラを起動させて連写する

カメラのシャッター音が連続で響くなか、裕先輩が湊先輩の隣にニヨニヨと近寄ってきた

「ちょ、裕先輩入ってこないで下さい」

「えーー、俺も一応、執事姿だよ?ほらほら~拝んでいいんだよ?」

「や、大丈夫です、何の特もないんで」

「わあああんん!!」

今は、学校祭の準備期間

三日後には学校祭だから、授業時間全部使って皆で準備に追われっぱなし

え、私?私は……


───ピンポンパンポーン、、


『羽華ああああっ!!どこ行ったのおおおお!至急教室に戻りなさああいっっ』ブチッ

『ちょ、君!勝手に放送機器使われたら困るよ、離れて!』

『はあ!?じゃあなたが羽華のこと探してくれるんですか?厚底メガネっ生徒会長っ!』

キーーーーーンッ、、、

突然の校内放送に固まる私達

ひきつった笑顔で私に振り返った裕先輩

「えっと?今のは菜留ちゃん?」

「あははっ、そうですね」

「抜け出してきたの?羽華ちゃん……」

「…まあ、はい」

「「……」」

そんな目で見ないでくださいよ、先輩方

私だって抜け出したくて抜け出した訳じゃないんです!!

学校祭楽しみたいよ!!でも、、


……菜留が放送室をジャックしたわけ、

「私、実行委員になっちゃって」

「え!あのクソ面倒な!?」

「はい……授業サボり過ぎて…」

先輩に会いに授業をサボりすぎて、先生に内申点下げられそうになって、焦って引き受けた実行委員

でも、思いの外、仕事が忙しくて、先輩に会えてなかったから、休憩時間にちょっぴり抜け出したら、思いの外久しぶりの解放感と自由に捕らわれてしまった…

実行委員の私がいないとクラスの作業は進まないよね…ってことで、菜留が私を探してくれてたんたと思う

からの、最終手段の校内放送、放送室ジャック

ああ!!菜留ごめんっ!

「てことで、先輩、さよならです…」

静かに立ち去ろうと教室のドアに手を掛けた

「待って」

ん?

目の前に浮かんでいた自分の影と湊先輩の影が重なって視界が暗くなる

振り返れば湊先輩の顔がドアップ

しかも、今は黒いスーツを装備した上に、いつもはノーマルなサラサラヘアーをセットしてあって、真ん中分けにされていて、大きな黒い瞳がしっかり見えて、余計に美しい顔が私を攻撃してくる!

「せ、先輩!?」

「しばらく、来れない?」

おでこをくっつけて、裕先輩には聞こえないように近距離で話す先輩

わ、私!口臭、大丈夫かな?!

こ、来れないっていうのは旧校舎の空き教室のことかな?!

「は、はい、多分しばらく委員会に駆り出されるので……」

「……そう」

私の返事を聞いても変わらない表情

瞳が静かに閉じられただけ

そして、おもむろに何度も私の髪を触り、撫でて、まじまじと見てくる

なんだ?

わあ、睫毛綺麗だなあ…


じゃなくて!!…え、というか、それだけ?

……いや分かってましたとも

今さらこれ以上の胸キュン展開望んでません!

そおっと距離を置いて先輩から離れようと先輩の胸に手を置いてグイッと押し返した

けれど、その手を掴まれて、また近づく声

「ん、頑張って」

「!?!?!」

おでこに触れた柔らかい先輩の体温

一瞬触れたのは先輩の唇で、

顔を上げれば、意地悪に笑う先輩

か、からかわれたっ!!

「し、失礼しますだっ!」

「…しますだ笑」

私に移った先輩の体温も爽やかな香水も全てがこの後の私の原動力になった



▽▽▽

「なーに、人前で見せつけてくれちゃって!」

裕がルンルンと近寄ってきた

着なれないスーツのネクタイを緩めて椅子に座る

執事カフェなんて面倒だな

「ねえねえ、湊くん?なになに、何があったの?なんか、甘いねえ、いつにも増して」

裕も俺のとなりに座ると薄茶色のスーツのネクタイを緩めた

「ねえ、羽華のこと……なんか見覚えない?」

「ん、どゆこと?毎日見てるじゃん」

「いや、違くて、……昔さ、中学の時…」

ほんとに今さらだけど、あの髪の色

綺麗に染まった蜂蜜のような太陽のような地毛

キラキラと光る一本一本に見覚えが…

「…あったような?」

「そうなのかい?」

裕は全く分からないのか首を傾げて不思議そうにしていた

裕から、まあ落ち着けとお茶を貰って外を見る

そこからは、裏庭で出店の準備に追われている生徒達が見えた

あ、羽華

ワラワラと散らかる生徒達の中で、走り回る羽華を見つけた

さっきまでは下ろしていた髪を淡いオレンジ色のゴムで縛って上にくくっていた

羽華が走り回るのに合わせて揺れる綺麗な長い太陽色の髪


……可愛い



「!?!?」

「うわっ、どした」

「…いや、、羽華がいた」

「ん?どれどれ~」

自分の思考に驚いた

いや、自然に思ったことに驚いて、……なに?

「んー?どこ?」

「え、そこ」

「………どこ?」

人多すぎてわからんなあ、と飲み干したペットボトルで頭を軽く叩く裕

え?わかんないの?

あんなに目立つのに

皆に囲まれてキラキラした笑顔を浮かべている羽華

笑うと大きな目を細めて頬を赤らめて笑う羽華

それにまた伝染するかのように頬を赤らめるその辺の男達

……気にくわない

「湊、さ」

「なに」

「え、なんで不機嫌!?」

羽華から視線を逸らさずに答えれば裕が隣でうろたえたのがわかった

羽華に群がる男達を一人の女子生徒が間にはいって蹴散らした

確か……羽華が菜留って話してた気がする

菜留、菜留って空き教室に来ては話してたな

……ムカつく

「げぼっ、げほっ!」

「湊!?お茶一回置け?」


な、なんなんだ

なんとなく平熱が上がった気がする

体が熱い


変だ…

羽華に触りすぎて変態菌染ったかも?

「……はあ」

「湊」

溜め息を吐けば、裕が俺の目の前にしゃがんでこちらを嬉しそうに見ていた

「ん?」

「好きなんだろ?」

「なにが」

「羽華ちゃん」

お互い沈黙、見つめ合う

ニコニコ顔の裕

その目に写った俺の顔はアホみたいにぽけっとしてた

「ま、まじか」

「わあ、湊らしくない口調!羽華ちゃんにも聞かせたかった」

しゃがんでいた足を伸ばすと、俺のとなりに座った裕は、嬉しそうに話し始めた

「よかったよ」

「何が?」

「湊が羽華ちゃんに会えて、いや、羽華ちゃんが湊に会ってくれて?」

目を細めてあまりにも楽しそうに笑うから何も言えない

「あはっ、ね?無理だったでしょ」

「……そうだね、無理だった」

「どうだい、初恋は?」

「…はずいからもう止めて」

ありきたりだけど、


大勢の中でも羽華が誰よりも輝いて目に飛び込んできたり

男でも女でも羽華の口から名前を聞くとモヤモヤするのも

その笑顔を他に向けないで欲しいのも

全部全部

羽華なんだ


「…でもさ、思ったんだけど」

「うん、どうしたの?」

裕がまじまじと俺の顔を見るから思わず目を逸らしてしまう

だって相当恥ずかしいことを今から言うから

「羽華じゃなかったら駄目だった、羽華だから知れたんだ、自分が冷たい人間じゃなかったんだってこと………羽華以外ありえない」

そう言った俺を驚いたように見てた裕は、その後クラスの人達がなんだなんだと戻ってくるほど大きな声で笑った

「湊……ほんとにっ!!ぶはっ」

「…もう駄目、消えたい」

「いひひひひっ、いーじゃんっ!ほんとにっ!あーもう!

              ……よかった」

裕は、最後に俺の頭を後ろから優しく叩くと、満面の笑みで窓の外を見て、囁いた

「おめでとう、二人とも」



△△△