高校一年の夏

帰り道、裕がその日はバイトで呼び出されて走って帰っていった日だった

どこか久しぶりによって行こうと立ち寄ったカフェ

そこにいた女に気付き、すぐに店から出たけど遅かった

「湊くん?」

高い声に背中がゾッとした

俺が振り返れば、走りよってきて、腕に絡み付いてきた

「久しぶりだあ、紗夜会いたかったなあ」

笑顔の紗夜は他の男といたのに俺にわざとくっついてきた

「紗夜?だれ?」

案の定男は不機嫌に俺を睨み付ける

いや、俺のせいじゃないでしょ

「え?湊くん」

話にならない、この人達

そう言ってさらにくっついてきた紗夜から離れようとする

が、

「え、えどこ行くの」

「帰る」

「えーーまだ一緒にいよーよ」

散々だ

振り払って離れれば冷たい表情を浮かべる紗夜

ああ、いま思えばこういう冷たい顔する奴だったな

表情の読めない冷淡な顔に少し気味が悪かった


その日は普通に帰った

次の日だった

その日はいつも通り裕もいて、普通に帰ってた

校門を出てから違和感


なんだ?

「ねえ、なんかいる?」

裕も気づいたのか周りをキョロキョロしている

振り返った先


「あ?紗夜か?」

裕も気づいたのか、振り返って面倒くさそうな顔をした

ニコニコと近づいてくる紗夜を無視して帰ろうとした

が、目の前に昨日の彼氏らしき男が立っていて前に進めなくなった

面倒くさい…

「お前か?紗夜のこと泣かせてたって奴」

泣かせてた?意味わからん

まあ確かに気持ちがないのに付き合ってはいたけど…

そのこと?

「ああ、そうかも」

「反省とかしてねーのな?その感じ」

「いや、悪いとは思ってるし、けど別れるときに話し合ったし、もう終わったことだと思って」

「紗夜は納得してねーんだなあ」

不気味な笑顔で近づいてくる男の後ろを見れば何人かの柄の悪い男

「いや、湊なにしたん?」

裕は愉快に笑ってるけど、俺は笑えないんだが

「なんも」

「だよね、…てことなんでお兄さん方、これは紗夜と湊の問題であって皆さんがしゃしゃり出てくるとこじゃないんですよ?」

俺の前に立っていた男に笑顔で話しかける裕

俺は、紗夜に視線を向ける

いつの間にか男達に囲まれてメソメソとしてる紗夜

「紗夜」

俺が話しかけるとパッと顔を上げた紗夜

目をうるうるとさせてこちらを見る姿に男達の同情心がくすぐられたようだ

俺を睨み付けてくるが気にしない

「納得してないの?」

「してない!してないよっ、紗夜は湊くんと一緒にいたかっただけなのにっ、気持ちなくてもよかったのにっ」

「……いや、じゃあ何で中学の奴らにあることないこと言いふらしたの?お陰さまで俺の居場所なくなったけど?」

「それはっ!!湊くんが冷たいから…」

「いやいやいや、湊、相当あんたに尽くしてたからな?気持ちなんか無いのによくあそこまでできたよ」

裕がキレ気味に紗夜に突っかかる

いや、まあ確かに態度は冷たかったかもしれない

俺にも責はある訳だし

「ごめん、悪いと思ってる。けど、もう一緒にはいれないし、視界にも入んないでほしい、二度と関わんないで」

振り回させるのは散々だ

疲れたんだ

何も言わなくなった紗夜に俺達は背中を向けて帰ることにした

取り巻きの男達も紗夜が黙ったことで大人しくなったみたいだし

少し離れたとき、



「……湊くんは結局顔だけだったね」



背中越しに聞こえた高い声

振り向けば紗夜が笑顔で俺に近寄ってきた

「中身なんてなーんにも無いのに、顔だけで得してさ、周りの人達もみーんな騙されちゃって」

「…口閉じろよ」

裕が紗夜に詰め寄るが止まらない

俺も黙って紗夜の言いたいことを聞く

「だから、紗夜は皆に教えてあげただけだよ?他人の事なんて、まして彼女の事なんてなーんにも思いやれない冷酷な人間なんだって」

「……そうかもね」
「湊っ!!」

「ね?紗夜はなーんにも悪くない」

そう言ってニンマリと笑う紗夜は、おかしい

けど、俺がおかしくしたのか?

俺が冷たくしたから

あの時断ってれば、最初から…