◇◇◇
賑やかな教室でポケッとさっきの授業だった数学の教科書を眺める
公式、数字、湊先輩
公式、数字、湊先輩
「先輩はまるで数学だ、…科学だ」
「羽華、あんた一回顔洗ってきてよ。キモい」
隣から菜留の冷たい視線と声が聞こえた
自分でも思ったよ、キモいな
聞くべきか、聞かないべきか
二回分のおサボり授業を見送って、ずっと考えていた
嫌われるのは、怖い
けど、それ以上に
聞いてしまうことで、湊先輩を傷つけることになるんじゃないかって
裕先輩のあの言い方
『湊は、あいつのせいで』
何があったの?
私が聞いてもいいの?
こんな、何でもない私が
ただのストーカー女が…
途端、ドンッと背中が重くなる
ギュット首に巻き付いた腕
かろうじて回る首で後ろを向く
「こ、洸くんっぐるじい!」
「だってさー、羽華が九条のことばっかり考えてこっち見てくれないから」
ムウッと顔を怒らせて抱きついてくる可愛い洸くんを思わず撫でてしまう
すれば、フニャんと緩まる洸くんの表情に心が暖まった気がした
むんっ!!癒しっ
ペシッと反対方向から軽くノートで叩かれた
「菜留さん、容赦ないですね……」
「もー、面倒だなあ、ほら重い男は任せて、先輩の所に行ってきな?いつまでもここにいられてモヤモヤされてても困るんだから」
「ううっ、行ってくるー、会いたいよー」
「ええ!!やだやだっ羽華っ羽華あああ」
ふらふらと席を立てば、足は案外軽やかに先輩のところまで歩けた
後ろからは菜留の怒声と洸くんの泣き声が聞こえた気がしたけれど……
合同授業で来れなかっただけだけれど、何だか少し懐かしい気分で、古い旧校舎のドアを開く
先輩いるかな?
そういえば、先輩の時間割確認するの忘れてたなあ、…私としたことが!
ゆっくりとドアを開けば、暖かい午後の日差しが顔に当たり、前がよく見えない
けれど、
「……待ってたのに、遅い」
大好きな不機嫌な声
優しい先輩の香水の香りも、全部全部この教室の一部
その全てに包まれたくて足を教室に踏み入れる
窓の枠にもたれて座る先輩は、ムスッとしてこちらを見ている
「……わあ、その立ち方、足長い自慢ですか?」
「羽華は、なんか全体的にちっちゃいよね」
「ふふ、女は長さの問題じゃないです、ハート、魂の問題ですよ」
「……可哀想」
「なにがです!!」
先輩との会話でこんなにも満たされる
これだけで十分じゃないの?
それは、きっと今だけ
もっともっと先輩の側にいたくなるんだろう
届かないのに
何も知らないのに
「……先輩」
「…ん?」
知りたいと思うのはダメなことですか?
迷惑ですか?
もっと、て思うのは可笑しいかな?
「聞かせてくれませんか?どうして彼女をつくらないのか……、この間の、紗夜さんのこと」
先輩、決めたよ
嫌われても、うざがられても
知りたいものは知りたいの
それに、私がつっこまなきゃ先輩、一生聞かせてくれない気がするし
だから、私から
一方通行でも、何度でも
「…うん、話そっか」
一度大きく見開かれた目は、嫌な顔ひとつすることなく、逆に少し嬉しそうに目を細めて答えた
「なんで少し嬉しそうなんです?」
「や、……羽華は、さ」
私と目を合わせると少し寂しそうに笑うからなにを言われるか身構えたけれど、
「こんな話聞きたくないかもって思ってたから」
また、悲しそうに笑うから、もう
先輩は、本当に
「わかってないですねっ!先輩のことなら何でも把握しておきたいんですよ!例えば昨日美容室に行ったとか、その時美容師さんに電話番号のメモ無理やり持たされてたとかっ!」
「……」
「引かないでええええ!」
たまたまっ、たまたまっ通りかかっただけで!
ほんとに!
「もう、いい」
「え、え!?何がです?いやだいやだ!先輩のお話聞かせてくだふっ!?」
「……しー」
私の口を大きな手でそっと塞ぐと少しイタズラに笑い、隣に座るように、床をポンポンと叩いた
黙って隣に座る
しばらく心地のよい静かな空気だけが漂う
そして、
「中学の時、少しだけ付き合ってたんだ」
そこで少しの間があって、吐き出されるように始まったお話
大丈夫かなって、確認した時、先輩の横顔はいつも通りで少しホッとした
「この間の人…………紗夜と」
先輩
ちゃんと聞きますから
だから、そんな
名前を呼んだだけなのに悲しい顔しないでください
妬いちゃいます
賑やかな教室でポケッとさっきの授業だった数学の教科書を眺める
公式、数字、湊先輩
公式、数字、湊先輩
「先輩はまるで数学だ、…科学だ」
「羽華、あんた一回顔洗ってきてよ。キモい」
隣から菜留の冷たい視線と声が聞こえた
自分でも思ったよ、キモいな
聞くべきか、聞かないべきか
二回分のおサボり授業を見送って、ずっと考えていた
嫌われるのは、怖い
けど、それ以上に
聞いてしまうことで、湊先輩を傷つけることになるんじゃないかって
裕先輩のあの言い方
『湊は、あいつのせいで』
何があったの?
私が聞いてもいいの?
こんな、何でもない私が
ただのストーカー女が…
途端、ドンッと背中が重くなる
ギュット首に巻き付いた腕
かろうじて回る首で後ろを向く
「こ、洸くんっぐるじい!」
「だってさー、羽華が九条のことばっかり考えてこっち見てくれないから」
ムウッと顔を怒らせて抱きついてくる可愛い洸くんを思わず撫でてしまう
すれば、フニャんと緩まる洸くんの表情に心が暖まった気がした
むんっ!!癒しっ
ペシッと反対方向から軽くノートで叩かれた
「菜留さん、容赦ないですね……」
「もー、面倒だなあ、ほら重い男は任せて、先輩の所に行ってきな?いつまでもここにいられてモヤモヤされてても困るんだから」
「ううっ、行ってくるー、会いたいよー」
「ええ!!やだやだっ羽華っ羽華あああ」
ふらふらと席を立てば、足は案外軽やかに先輩のところまで歩けた
後ろからは菜留の怒声と洸くんの泣き声が聞こえた気がしたけれど……
合同授業で来れなかっただけだけれど、何だか少し懐かしい気分で、古い旧校舎のドアを開く
先輩いるかな?
そういえば、先輩の時間割確認するの忘れてたなあ、…私としたことが!
ゆっくりとドアを開けば、暖かい午後の日差しが顔に当たり、前がよく見えない
けれど、
「……待ってたのに、遅い」
大好きな不機嫌な声
優しい先輩の香水の香りも、全部全部この教室の一部
その全てに包まれたくて足を教室に踏み入れる
窓の枠にもたれて座る先輩は、ムスッとしてこちらを見ている
「……わあ、その立ち方、足長い自慢ですか?」
「羽華は、なんか全体的にちっちゃいよね」
「ふふ、女は長さの問題じゃないです、ハート、魂の問題ですよ」
「……可哀想」
「なにがです!!」
先輩との会話でこんなにも満たされる
これだけで十分じゃないの?
それは、きっと今だけ
もっともっと先輩の側にいたくなるんだろう
届かないのに
何も知らないのに
「……先輩」
「…ん?」
知りたいと思うのはダメなことですか?
迷惑ですか?
もっと、て思うのは可笑しいかな?
「聞かせてくれませんか?どうして彼女をつくらないのか……、この間の、紗夜さんのこと」
先輩、決めたよ
嫌われても、うざがられても
知りたいものは知りたいの
それに、私がつっこまなきゃ先輩、一生聞かせてくれない気がするし
だから、私から
一方通行でも、何度でも
「…うん、話そっか」
一度大きく見開かれた目は、嫌な顔ひとつすることなく、逆に少し嬉しそうに目を細めて答えた
「なんで少し嬉しそうなんです?」
「や、……羽華は、さ」
私と目を合わせると少し寂しそうに笑うからなにを言われるか身構えたけれど、
「こんな話聞きたくないかもって思ってたから」
また、悲しそうに笑うから、もう
先輩は、本当に
「わかってないですねっ!先輩のことなら何でも把握しておきたいんですよ!例えば昨日美容室に行ったとか、その時美容師さんに電話番号のメモ無理やり持たされてたとかっ!」
「……」
「引かないでええええ!」
たまたまっ、たまたまっ通りかかっただけで!
ほんとに!
「もう、いい」
「え、え!?何がです?いやだいやだ!先輩のお話聞かせてくだふっ!?」
「……しー」
私の口を大きな手でそっと塞ぐと少しイタズラに笑い、隣に座るように、床をポンポンと叩いた
黙って隣に座る
しばらく心地のよい静かな空気だけが漂う
そして、
「中学の時、少しだけ付き合ってたんだ」
そこで少しの間があって、吐き出されるように始まったお話
大丈夫かなって、確認した時、先輩の横顔はいつも通りで少しホッとした
「この間の人…………紗夜と」
先輩
ちゃんと聞きますから
だから、そんな
名前を呼んだだけなのに悲しい顔しないでください
妬いちゃいます

