騒がしいレストランではなく、湊先輩に連れてこられたのは、静かに熱帯魚が泳ぐ大きな水槽の前

そこに合った小さなベンチに肩を並べて座った

裕先輩は、お会計のために、あと洸くんと菜留を迎えに行ってくれた

お昼時だからか人はいなくて、静かな空気が流れる

コポコポと水の流れる音

青い空間に二人

「…羽華」

先に口を開いたのは珍しく先輩で、私は静かに隣に視線を送った

「なんも、されてない?」

「…はい、何ですか、襲ってくるタイプの人なんですか?」

確かに、月野先輩は襲ってきたけど…

「そ……ならいいや」

そのまま、また水槽を見つめて話さなくなってしまった先輩

瞳に映った青い光が綺麗

私も水槽を眺めた


何にも教えてくれないんですね

知ってたけれど

……いいけど

先輩が話さないなら、気にしない


気にしたいけど、気にしない

きっと聞いても嫌な顔をされて終わるだろうから

それに、


さっきみたくあんな悲しい顔の先輩は見たくないから

聞かない



ふと、肩に重みがかかる

香る、爽やかな香水


「…湊先輩」

てっきり寝てるのかと思ったら、しっかりと目は開いていて、せつなげに水槽を見つていた

ぶつかった所から、先輩の優しい体温が伝わる


右手にひんやりとした先輩の手が静かに重なった

ギュッと握られて驚いた

けれど、私も静かに握り返して何も言わなかった

「…先輩、相変わらず冷たい手ですね」

「…ん、羽華はいつも暖かい」

握られた手

いつもより流れる空気は静かで、


どこか、重かった