「…もー、だから早く離れたかったのに」

隣から機嫌の悪い声が聞こえてくる

それよりも、

今、目に映る光景から目が離せない

先輩に抱きついてる可愛らしい乙女

困惑した表情で動けずに固まっている湊先輩

それを見守る私と裕先輩


えっと、


「お、お知り合いですか?」

私の挙動不審な声に答えてくれたのは、目をうるうるさせた、紗夜と呼ばれた女の子

「うん、うん!そう!ずっと、会いたかったの……ね?湊くん」

「…」

上目遣いで先輩を見上げる紗夜さん

ね?って、えっと、それはつまり、

「感動の再会ってことですか?」

「そう!」
「違う」

嬉しそうに答えた紗夜さんとは逆に、湊先輩は不機嫌に否定した

「いいから、離れて」

「えっ、やだやだっ!」

湊先輩にベッタリの紗夜さん

なかなか離れない彼女に先輩がだんだんと苛立っていくのがわかった

この人……どんだけメンヘラな子に好かれるんだ…

隣で動いたのは、裕先輩

嫌がる湊先輩に近づいていき、紗夜さんの首根っこをつかみ、後ろからひっぺがした

「は、離して!」

「うるさいなあ、いい加減しつこい」

「……ありがと」

「わぁお、湊からそんな言葉貰えるなんて!」

裕先輩がデレデレし始めた隙をついてか、また湊先輩にくっつく紗夜さん

「!?!」

「……湊くん、ごめんね、……紗夜が弱いから湊くんのことも傷つけちゃったよね?紗夜からバイバイしなかったら、今も側に居てくれたでしょ?」


な、なんの話?

見るからにあちゃーっとしたポーズを取った裕先輩に、その横で顔を曇らせた湊先輩

……先輩、苦しそう?

紗夜さんの潤んだ瞳に見つめられて、さらに暗い表情になる先輩

どんどん顔が強ばっていく

な、に、なんだか


「……離れてください」


湊先輩の腕を引いて、紗夜さんから離した

先輩方の問題なら首を突っ込むことはないんだろうけど……

「湊先輩が、苦しそうなんで、一旦離れてくれませんか」

「な…っ!」

真っ直ぐに紗夜さんを見れば、また揺らぐ瞳

でも、関係ない

私が一番大事なのは、湊先輩のことだから

そのまま、湊先輩の腕にしがみついたまま、威嚇していれば、掴んだ腕から力が抜けていくのがわかった


「羽華」


優しい声が上から聞こえる

「…湊先輩、大丈夫ですか」

「…ごめん、行こ」

私に僅かに笑みを溢して、裕先輩と視線を合わせて私の手を引く湊先輩

え、いいの?

呆然としている紗夜さんが、はっとしたように口を開いた



「……湊くん、また会いに行くね」


そう告げて、身を翻した時

一度だけぶつかった視線は驚くほどに冷たかった