動画を見ること五分
落ち着かない変態心を沈め、トイレを出る
襲うことは絶対に許されない!!
心を決めて席へと続く角を曲がった時、
ドンッ
「「っ!!」」
ぶつかった!?
軽くよろけて後ろに下がる
相手も同じくあまり、衝撃はなかった様で少し驚いただけみたい
よかった……
「ごめんなさいっ、よく見てなくて!」
「ううん、こちらこそだよ?」
私が思いきり頭を下げると、クスクス笑いながら手をヒラヒラさせて大丈夫、大丈夫と言ってくれる鈴の音のような可愛らしい声が響く
そこで始めてその子をきちんと視界に捉えた
おわっ!可愛らしい!
クリクリの大きな瞳は小動物を連想させて、メイクがされているのだろうか、口元はピンクのグロスで彩られてキラキラしてる
真っ直ぐなサラサラの黒髪はその子が笑うとつられて優しく揺らぐ
年上かな?何だか落ち着いたその雰囲気にソワソワしちゃう
───セーラー服だ、……西山高校の子かな?
私の通う高校からは少し距離のある西山高校
その辺りでは珍しい、赤いリボンにチェックの紺色のスカートがよく似合うセーラー服の学校
確か倍率がすごく高いんだよね…
ぼやっとそんなことを考えていたら、女の子の方も私をガン見していたことに気づいた
え、え?!
なんか、変だったかな?それともまだ変態オーラ出てたかな?
「ねえ、七峰高校の子?」
「へえっ?あ、はい!」
あ、見ていたのは私じゃなくてこの制服か
我が七峰高校の制服
茶色を基調としたブレザーで、学年によってリボンの色は違う
私は赤色のリボンに、今は暑いので薄ピンクのシャツにブレザーは来ていない
薄い茶色のカーディガンは、今は椅子に置いてきてしまった
濃い茶色いチェックのスカートには、小さく七峰の象徴であるエンブレムが入っているから、それでわかったのかな?
「やっぱり!ねえ、それなら…」
「?」
「羽華ちゃん」
後ろから少し低い声
その人の声なのに、聞き慣れない声色にビクッと反応してしまう
「裕先輩?」
「さ、戻ろう?」
私の手を少し強引に引いて、その場から離れようとする
明るい茶色の髪から覗く優しい瞳は、いつもの余裕の雰囲気がない
変な先輩に困惑していたら、
「…裕くん?」
「え、え?」
後ろからさらに困惑した声が聞こえた
振り返れば先程の可愛らしい子が、黒い瞳を揺らしながら裕先輩を捉えていた
「……うん、そうだけど、で?」
「え、ちょ先輩?」
裕先輩の冷たい声に、その重暗い視線に私まで震える
いつしか話してくれた、しつこい子達へのフル時の態度ってこういうことかな?
だとしたら、私だったら泣いちゃうかも…
いつもの裕先輩を知っているからこそ、怖い
「えっと、だから、その…」
鈴の音の様な声を震わせて、視線を彷徨わせるその子
えっと、私このままここにいていいのかな?
ワタワタしだした私を見て、クスリと笑う裕先輩に少しホッとした
「そーゆー所ホントに嫌いなんだよなあ、コソコソ嗅ぎ回ってないで直接聞きに来れば?まあ、追い返されるだろうけどね?」
えええ!!
こっわ!!
こんな、今にも泣き出しそうな子にそんな顔で声で!!
「…うっ、うう」
わっ、わあ!!
ほら、ほら泣き出しちゃったよ!!
「ちょっ、先輩!」
「いーよ、行こう」
くいっと私の手を引いて歩きだしてしまう先輩
ええ!このまま置いていくのはちょっとじゃない!?
何とか先輩を引き留めようとした時、
「……紗夜」
突然聞こえた大好きな声がやたらと耳に残った
───紗夜、
そう呼ばれた彼女は、泣いていた顔を上げて声の方へと走っていった
ああ、本当に
私はあなたのことを何にも知らないんだなあ
今度は私の心が軋み叫びだす
裕先輩の睨み付けるような視線の先
揺れる長い黒髪に抱きつかれているのは、
見たことのない表情をした、湊先輩だった