あちらこちらからいい香りが風に乗って漂う

太陽が照らすテラス席に勢いよく腰を下ろす

「けっ!!もう仲直りしたのかよっ!!」

ざわつく水族館内にあるレストランにて

洸くんや菜留、裕先輩と合流してレストランへ

もちろん、しっかりと湊先輩の隣をキープした私を見て洸くんが可愛い顔に反した低い声で奈留によって座らされた私とは反対側の席で文句を言っていた

「これから九条のことはゴキブリって呼ぶからなっ!しぶとい悪徳ゴキブリめ!!」

「しぶとさは羽華に負ける」

「あー、確かにゴキブリなのは羽華かもしれないですねー」

「なっ!?菜留さんっ!!」

皆で人をゴキブリ扱いして…

隣に座る湊先輩は、盛り上がるゴキブリトークには参加せずに、さらに隣に座る裕先輩のお皿から、バターロールを奪ってモグモグしていた

「自分のまだ、残ってるじゃないですか…」

「あはは、湊は俺のばっかりよく欲しがるからなあ、まあ、湊なりの愛情表現ってやつ?」

「ちが、」
「えええ!!じゃあ、私のもぜひ!」

「や、裕の好きなもの捕った時の顔が面白いから」

「「………」」

裕先輩に関しては半泣き

私も真顔で裕先輩からローストビーフを捕ってまたモグモグしている湊先輩を呆れためで見つめた

湊先輩のお皿には小さなカップケーキが残っていて、それだけがポツンと取り残されている

苦手なのかな?

湊先輩を見上げれば、次は裕先輩のチョコレートケーキに手を出そうとしていた

ので、

「じゃあ、貰っちゃいますねこれ」

ヒョイッと先輩のお皿からカップケーキを取る

そのまま一口

「……んー、甘いですね?」

「羽華!!口から出しなさい!!九条の物なんて接種しちゃいけません!」

洸くんがテーブルから身を乗りだし慌てたようすでティッシュに手を伸ばした

気にせずモグモグしていたら、


「羽華」

湊先輩の不機嫌な声

捕まれた手首が先輩に近づく

「返して?、楽しみは最後に取っとくタイプだから」

鼻がぶつかる距離に先輩の顔が

気づけば私の手にあったケーキは先輩の口元へ


そのまま近づく顔


「口についてる、溢しすぎね?」

唇スレスレに先輩の柔らかい体温が触れた

離れていく顔は、何とも意地悪に微笑んでいて、その手で優しく頬をなぞられる

「九条おおおおお!!」

顔を真っ青にした洸くんと、「ひゃ~」と言いながら笑っている菜留

裕先輩はニマニマとだらしなく表情が緩んでいる

「根に持ってたじゃん、ヤキモチじゃん」

「うるさい」

ニヤニヤ声の裕先輩と湊先輩の会話をどこか遠い気持ちで聞きながら席を立つ

「羽華~?ちょと、ちゃんと戻っておいでよー?」

「羽華どこ行くんだよっ??俺も行くっ」

「あんたは、ここにいなさいね」

「ふふふ、俺的には洸と菜留ちゃん、言いと思うんどけどなあ?」

「あ、私ずっと付き合ってる彼氏いるんで」

「洸……」

「いや、何で俺がフラれたみたいになるんだよおおおおお!!!」

楽しげな会話を後ろで聞きながらとりあえず上がった体温を冷やそうとトイレに向かう

くいっと引かれる手首

振り返ると、椅子の背に顎をのせて上目遣いの湊先輩

いつも眠たげな目をこちらに向けて、私の手を引く

こ、これは


「早く帰って来て?」


もう、キャパオーバーです先輩

「はひいいいい!!」

ダッシュでトイレに駆け込む

あれは、人を殺せるモンスターだ!!

顔面兵器だよ!!

思わず便器の水でやましい心を沈めようとしてしまったが思いとどまる

スマホを開き可愛い動物の動画を見る

このままでは、先輩を襲ってしまう!!