「み、湊先輩、…えっと、今までどこに?」

「別に、…寝てた」

ふいっと視線を反らされてしまう

早い心音は私を探してくれたのかな?なんて、思ったけど、そんなわけだよね

「呼吸するのに必死ですもんね…」

「…どーゆこと」

「ぶっ!!…毎日いっふょうけんめい生きてるってことでふぅっ!!」

ふいーっと頬っぺたを摘ままれて上下に引っ張られる

「いひゃいですぅ」

「…そ」

無表情で人の頬っぺたを弄びやがって!!

「この、ひゅんでへぇめ!」

「ツンデレって言ったんなら、このまま引っ張りちぎる」

言いながらも頬から手を離し、そのまま、大きな手で顔を包まれた

平熱の低いであろう先輩の手は、真夏なのに冷たくて気持ちがいい

思わずその体温に表情が緩む

「…そーゆーとこ」

「え?」

「だから、すぐ取られるんだよ」

「何がです?」

どこまでも話のわからないバカに呆れたのか、ムッと表情が固くなる先輩

いや、ここまで語彙の少ない先輩と会話できてる私は凄いでしょーに

「それで、何で俺のこと避けてたの?」

「え!?あー、やー、そんなことは…だってほら、隠しカメラでしっかり撮影はしてるし…」

「…それは、知らない」

しっかり冷めた目で見つめられて、私も苦笑いを返していたら、

──ブブッ…


「羽華のじゃない?」

「あれ、ほんとだ」

スマホの画面を覗くと、洸くんから大量のメッセージがきてた

一分おきに…

今まで先輩探しに夢中で全然気づかなかった

「…怖い」

「た、確かに、いや先輩は少し見習うべきですよ…私が連絡したの気づきませんでした?」

「羽華のはブロックしてるから…」

「それがホントならいよいよ泣きますよ」

とりあえず、洸くんに返事を返す

すると、一秒と経たないうちに返信が帰ってきて、{今から迎えに行くから}ときた

「洸くん、来ますって」

「あそ」

先輩を見上げて伝えれば、どこか納得のいかない表情をしながらも冷たい返事が帰ってきた

その後も、私を心配してかひっきりなしに洸くんから連絡が来るので、必死になって返す

洸くん、文字打つの早くない…!?

と、突然スマホが手から離れた

「え、先輩返して!!」

「没収」

そのまま私のスマホは先輩のポケットにダイブ

え、いいな

「え、スマホになりたい…」

「…キモい」

先輩の温もりはきっと私のスマホに残るから帰ってきたら堪能しよう

うんうん、と頷いていると、

「…じゃない」

「へ?」

私の隣に立つ先輩が私とは顔を反対方向に向けながら何か呟いた

「何ですか?もう、相変わらず声小さいですね」

「……距離が近いんだよ」

「ん、先輩とのですか?」

なんだか、珍しくもじもじとしている先輩

なんの距離?確かに先輩との心の距離は私的にはゼロセンチだけども

「洸との、距離」

「え、洸くん?」

そんなことを言うなり、睨みを効かせた視線を一瞬だけこちらに向けて視線を反らし、また顔を背ける先輩

「いや、洸くんとは昔からこんな感じですよ?」

「だからって、キスとかしない」

「いやいや、いつの話ですか」

いや、自分で思うけど、どの口が言っとるのさ

さっきまでその事で月野先輩に怒られてたのに

と、いうか

「え、え、先輩もしかして、」

これは…

「ヤキモチ……」

そう私が言えば、こちらに揺れる視線を合わせた先輩

少し頬は赤く染まって見えた

「え、え、可愛いかよ!」

「ちょ、うざ」

そっぽを向いて、身体ごと反対の方向に向く先輩の腕にしがみついて近寄る

そんな私の頭をグイグイと押して離そうとしてくる先輩

「照れないでください!!私なんてしょっちゅうですっ!ホント、先輩に近寄る女、皆、絞め殺しちゃうぐらい!」

「じゃあ、自分の首絞めといてください」

いつもの憎まれ口を叩く先輩

ムッとして、ぐっと近づいた距離を離そうと、私から先輩の胸に手を当てて押し返す

それと同時に逆の方向から強い力に押し返されて先輩の腕に収まった

「えっと、先輩」

「…なんでしょう」

「なんでしょう、これは」

ギュッと抱き締められて反射で顔が赤くなる

大好きな先輩の腕

大好きな香水の香り

私よりずっと高い背

全部が全部嬉しくて、同時に私を傷つける

でもね、


「なに、キスとかされてるの」

「…されましたねえ」

「距離とか近いし」

「幼馴染みディスタンスですよお」

「…ほんと、」

──……ムカつくんだけど

そんな言葉で舞い上がっちゃうの

だからね、先輩

「あんまり、ストーカーを煽らないで下さい」

「……煽ってる?」

「かなり過激化してます」

「コーフンの間違いじゃない?」

キュッと先輩の着ているベストを掴めば、私の頭に顎をのせて溜め息を吐いた先輩

「…可愛いことしないでよね、…ホントさ、……羽華がいい加減、諦めてよ」

小さく呟かれたその言葉は私には届かない

「…俺じゃ羽華のこと幸せに出来ないよ」

ねえ、先輩

私がどれだけ先輩を好きか

まだ伝わってないの?

この時、もっとちゃんと伝えていれば良かったね

先輩の気持ちに寄り添えれば、


良かったのに




「先輩、そろそろ私汗かいてきました…」

「え、汚な」

「いや、雑」

さっきまで痛いくらい抱き締めてたくせにあっさり離れていく体温

寂しいなんて、彼女じゃない私は先輩にすがれないけれど、

「湊先輩」

「ん」

歩きだした先輩が顔だけで振り返った

その仕草も

揺れる表情も黒い瞳も髪も

香る風も


今は二人だけ



「好きです、愛してやまないです」


久しぶりに声にだせば、情けなく震えていて

作った笑顔も不器用だったけど、


「…ごめんなさい」

一瞬、見開かれた目


らしくない曖昧な笑顔を浮かべた先輩

けど、いつものように帰ってきた言葉に胸を痛めるのも、久しぶりで

思わず、泣きそうになった


だけど、もう一度誓うよ

『好き』

何度でも毎日でも、伝え続けることを

今度こそ


先輩が幸せになる日まで