バスで移動すること早一時間
バスを降りれば既に各自のびのびと一週間の恐ろしい授業の疲れを発散し始めている
今日は合同授業最終日
今年の最終日は、生徒の要望で一番多かった水族館に行けることになった
せっかく天気がいいから、室内に入るのはもったいない気もしたけれど…
イルカのショーも見れるみたいだし!
「楽しみだあ!」
「うるさいよ」
「!!」
後ろから聞こえた声に体が震えた
な、なんで
さっきトイレに行くところちゃんと確認したのに!!
しばらくは戻って来ないと思って油断してた!
「み、なと先輩、随時早いお花摘みですね」
「…トイレの監視までされてるの、俺」
続かない会話
もちろん湊先輩が私に会話を振るわけもなく
始まったのは沈黙タイム
さっきまで後ろにいた菜留も洸くんもいなくなってるし!!
いつも湊先輩にベッタリの裕先輩もいない…
モヤモヤして、うまく先輩の顔を見れない
いつもなら、会えて嬉しいのに
今はただ、苦しいよ
誰か……
「……羽華、」
「羽華ちゃーん?」
湊先輩が躊躇うように声を出した時、透き通った綺麗な声が被さった
久しぶりに聞いた声は、今の私を救い上げるように近寄ってきてくれた
「久しぶりだね?ちょっとあっちで話そうか?」
「月野先輩…」
優しく私の手を包み込んで、湊先輩から距離を取ってくれた
少しずつ出来る距離
やっぱり先輩は追いかけて来てくれないんだね
いいけど
いいんだよ
「月野先輩、ありがとうです」
「いーのよ、それより便所コオロギみたいな顔をどーにかしなさい」
「べんじょ……」
相変わらずのお口の悪さですね…
でも、その表情はどこか明るくて、前よりも美人さんに見える
それに繋いでくれた手はスベスベ
サラサラの髪からは優しいシャンプーの香りがする
まさにいい女……
「なんだか、悪寒がする……湊の気持ちがわかったわ」
「どーゆーことですか!!」
「ふふっ、じょーだん」
前よりも優しい笑顔に心が暖まった
二人で笑いながら進み、水族館の中にあるテラス席に腰を下ろす
天井には水槽に繋がる水が流れていて、キラキラ太陽の光に照らされて光っている
月野先輩は、ブルーハワイ味のソーダジュースを買ってくれた
ジュースの中にはイルカの形のグミが入ってて可愛い
いつもなら、上がる気分もなんだか沈んだままで、モヤモヤが広がる
「その顔……ホントにどーにかしてよ」
「そんなにヒドイですか?!」
うんざり、といった顔でピーチのジュースをストローで飲む先輩
そんなことを言われても……
「自分でも、どう立ち直ったらいいものか…」
「まあ、友達なんだから、聞ーてあげてもいいけど?」
頬を赤く染めてそっぽを向きながら、そんな可愛いことを言ってくれた先輩
「先輩いいいい!!」
「ほら、早く、暇じゃないから」
待たせてる人がいるの
先輩はそう言って、また赤くなる
あ、先輩にも大切な人が出来たのかな?
暖かい気持ちになって、自然と頬が緩むのを感じた
良かった
先輩、そんな中で私のために時間を作ってくれたんだね
「…先輩、自分でもわからないんです」
「…うん?」
この間の出来事
その事で湊先輩は、なんとも思ってないってわかったこと
現実を突きつけられたこと
「わかってたことなんです、…でも、改めて感じて、自信がなくて、自分でもどうしてこんなに傷ついてるのか」
「それは、羽華ちゃんが思ってた以上にキスされたことがショックだったんじゃない?」
え
「そうなんですか?」
「そうなんじゃない?ましてや、好きな人の前で、そしてその好きな人はその事に対して無関心だったから余計に傷ついたのよ」
そっか、湊先輩に対する思いだけじゃなくて、洸くんに対しても思う所があったんだ
でも、洸くん
最近、様子のおかしい私を心配して、何度も謝ってくれた
だから、もう
「いいんです、その事は」
「うん」
「私は、……湊先輩のこと、好きでいていいんですよね?」
きっと、確認したかった
私だけじゃなく、誰かに
先輩にも、無視されたこの想いを
ただ、不安になったの
「あたりまえ」
真剣なまっすぐな目
「誰の許可もいらないの、羽華ちゃんが決めたことでしょ?本人が認めてあげなくてどうするの?自分の気持ち、正直にね」
「……はい」
「あなたらしくない……もっとバカになりなさい」
いつも通り、まっすぐにね
月野先輩は、最後に笑っていなくなった
少し会わなかっただけなのに、何だかすごく大人になった先輩
もしかして、新しい大切な人に教えて貰ったのかな?
月野先輩も自分に正直に恋をしてるのかな
そう、だよね
今までだって湊先輩の気持ちを無視して、告白してきたんだもん
今さら、だよ
私は先輩に大切な人が出来るまこの想いを誰よりも自分で大切にしよう
ありがとう、月野先輩
きっと、どこかでサボってる湊先輩を探して走った

