パッと視線を先輩の綺麗なお顔から外せばそこにはニヤニヤとだらしない顔をした裕先輩が袋を手にぶら下げて立っていた

「裕先輩タイミング…空気読んでください」

「えー、ごめんね?湊がまさか襲ってるとは」

「いや、襲われてた」

「え!?ちょ、先輩!?」

何事もなかったかのようにムクリと起き上がりわしゃわしゃと崩れた髪を直している

さっきまでのドキドキを返してください…

私も立ち上がりボサボサになった髪を適当に直す

「何買ってきたの」

「ん?ほれ、カップラーメン納豆味」

「わー、相変わらずのダサめのセンスですね」

「いや、これがさ」
「美味しいから」

顔を突き合わせてこちらを振り返り二人が珍しく息の合った会話をする

え、本気で??

あれよ、これよとカップラーメンが完成させられていく

え、匂いが、ヤバめよ?
別に納豆嫌いな訳じゃないけど結構すごい匂いが…

「ん、どーぞ」

「え…」

湯気の立っている麺をこちらに運び勧めてくる湊先輩

隣に座っている裕先輩に助けの視線を送ったけど、、まさかのもう既に納豆カップラーメンをすすっている

イケメンは麺をすすってても絵になる……じゃなくて!え、美味しいの、、?

「あの湊先輩、私、乙女として夜のカップラーメンはちょっと?」

「乙女は夜に男の部屋に入ったりしないと思うけど?」

「それは、色気全開の先輩が悪いです」

「食べて」
「んぐっ」

鼻から入ってきた納豆の匂い、少ししょっぱい醤油味の汁

あ、これ

「美味しい…かも」
「うん」

「でしょー!!俺の感性に曇りはなかったっしょ!!」

既に食べ終わったのか裕先輩が体ごとこちらに身を預けて寄りかかってきて椅子から落ちそうになる

私に食べさせたことで満足したのか今度は自分がモグモグと食べ勧めている湊先輩

美味しい、美味しいし、なにより……!

「今、あーんってしてくれましたね」

「…は?」

「だから、今食べさせてくれましたよね!しかも、その箸で今先輩はラーメンを食べている!!これは、間接ちゅーですよね!!」

「……」

「あ、ちょっ、箸、はし!!捨てるなっ変えるなっ!」

「羽華ちゃん発想がキモイね」

「いやいやいやっ、これ大事なことですよね!ちょっ箸、捨てちゃうなら私にください」

「いや、急な真顔やめて羽華さん」

「…もう帰って」

食べ終わった先輩がスッと立ち上がって、隣にいた私の脇に腕を通し立ち上がらせてズルズルと出口まで引きずられる

「まだ帰りません!泊まってやるつもりだったんですよ!」

「うるさいのは裕で間に合ってる」

「羽華ちゃんまた来てねー」

「引き留めてくださいよーっ」

ガッと出口直前の柱にしがみつく

先輩も負けじと私の腰に腕を回し直してぐぐっと引っ張ってくる

「ひどいっひどいですよ、先輩!間接キスは初めてだったんですよ!責任とれーーー!」

「……間接キスは?」

「わー、羽華ちゃん自爆」

ベットに寝っ転がって何故か楽しそうに顎に手を当ててこちらを見ている裕先輩

不意に引っ張るのを止めて無表情にこちらを見ている先輩

え、なに、何かやらかしちゃった?

不安になって固まっている湊先輩に近づいて顔を覗き込む

「せ、先輩?わっ!?」

ぐあっと腰に腕を回されて上に持ち上げられる

急に地面とおさらばしたからビックリして固まる

なに!?なに!

気づけばあっという間に部屋の外

見上げれば不機嫌な湊先輩がドアの前で仁王立ちしている

「先輩?」

「おやすみ」

パタンっと静かに閉められたドア

ポツンと一人残されて、寂しくなる

何に対してのムスッとなのかな

でも、先輩におやすみ貰ったから今日の所は黙っておやすみしてあげましょう!

ルンルンと先輩の部屋から離れた




▽▽▽
羽華が居なくなった部屋は静かで、一呼吸する

ボスっとベットに座り込んでそのまま倒れる

ほんと、1分相手するのも疲れるんだけど

なのに隣からまだうるさい視線を感じるから腹立たしい

「湊ー、俺はまだ間接キスだけだから安心しな?」

「うるさいよ」

「まさか羽華ちゃんはキス済みとは…」

「……ガキなのにね」
あんな幼稚な感じなのに相手する奴がいるんだ
フワフワした蜂蜜色の髪を他に知っている奴がいる

ざわざわした気持ちになって枕に顔を埋める

「ひゃ~、ツンツン!妬くなよ~!ぐえっっ」

さっき裕が買ってきていたココア缶を腹めがけて投げつけた

「寝るよ」

「え、ちょい待って!暗いのヤダから歯磨くまで待って!」

「…早く」
暗いのヤダって子供みたいに泣き出しそうな顔するから何も言えなくなって黙って待つことにする

慌ただしく洗面所に駆け込んだ裕がヒョコっと顔を出す

なんだ?

「あ、俺の歯ブラシと交換して湊も間接ちゅー済みにしちゃう?」

「……」

「まってまって!ごめんじゃん、おいっ湊!」

ニヤニヤとふざけたことを言った奴に気を遣う必要はない

俺は部屋の明かりを全て消して布団に潜り込んだ

△△△