……


暖かい

なのになんで、どうしてそんなに悲しそうなの?

ごめんなんて言わないでほしい

私は幸せだから

────………

「あ、起きた?」

無表情にこちらを見つめる王子

握られた手

同じ布団

添い寝

これは、

「新婚みたいな…」

「また寝たい?」

片手で私の頬をムニッと鷲掴みにして黒い笑みを浮かべる先輩

だけどその言葉もプラスに捉えればなんだかいい様に聞こえてくる……

「……気持ち悪い」
「ひ、ひどいっ」

新婚の二人を想像していたら顔がだらしなくなっていたみたいで、先輩に心底うんざりした顔で見られた

うん、その顔もよし

「先輩も寝てたんですか?」

「…いや、間抜けヅラ眺めてた」
「間抜けヅラって!?あっ、キュンと来ちゃいました?惚れちゃいましたか、何なら襲っちゃいますかッッ」

「おやすみ」

先輩は真顔で私の頭の下にあった枕を思い切りひっぺがしてそれを顔めがけて投げつけてきた

くっ苦しい!!

動こうにも上から押さえつけられているからただ苦しいだけ、とりあえず両腕をぱたぱたさせると先輩のサラサラな髪の毛に触れられた

ので、先輩の頭に手を回してぐっと私の方に引き寄せた

ポフッと枕を挟んで顔がぶつかる

「……ねえ」

先輩の声がすぐ側で聞こえる

これは、、枕越しとはいえ…!

何かに例えるなら、間接キスみたいな……

自分でそんな事を考えて恥ずかしくなってギュットつい先輩の頭に回した手を強めてしまう

「……苦しいんだけど」

モゴモゴと枕を挟んで喋ってるから、声が籠って聞こえる

でも、今先輩に顔を見られたら絶対にバカにされるもん!

だから、離れるわけにはっ

「これ、邪魔」

パッと開けた視界

鼻がくっつく距離に先輩の顔が

近い距離のまま、先輩の手が私の髪の毛に触れた

髪に何度か触れ、スッと髪を掬われて髪はそのまま、先輩の口元へ

蜂蜜色はベッドのランプの明かりに照らされてキラキラと光っている

「……髪の色」

え、色?……先輩もやっぱりあの日と違って、考えが変わっちゃって変な色だと思われちゃったかな?

ええ…!あの時は誉めてくれた先輩にまで否定されちゃったらもう立ち直れる自信がないよ!?

何を言われるのか黙って見つめ返す

先輩の目は私の蜂蜜色の前で止まったまま

手がゆっくりこちらに伸びてきてフワッと頭を撫でられる



「……あったかい」


ふっと、目を細めてこちらに笑顔を向けるから思わず目を見張る

ねえ、先輩


『太陽みたい暖かいね』

本当は覚えてるんでしょう?

きっと、この先私は忘れないよ

先輩が初めて会った日のことを覚えてなくても

だって、また会えて、またこんな風に暖かい言葉をくれたから

そっと私の頭を包む大きな手に触れる

「でしょう?」

嬉しくて、思わず微笑み返せば先輩が目を見開いた

「なんで、泣く?」

「え…?」

頬に暖かい涙が流れていることに気づかなかった

「…泣くな」
「ううっ、先輩、雑です」

ゴシゴシとスウェットの袖で涙を拭われる

時おり覗く心配げな顔にまた涙がこぼれる

「ふふふふっ」

「キモイ」

「幸せな涙です、これ」

「…?あそ、汚いから着替えてくる」

私の涙でべちゃくちゃになった袖をヒラヒラさせてベットから出ていこうとする

え!!そんな!!

「ちょっ、もう少し一緒にベットインしてましょう!!」

「え、やだ」

「ぐっ、頭掴むのやめてください!」

「羽華が押し倒してんの止めてくれたらね」

なんとも言い返せない…

だけどチャンスなんです!こんな先輩と二人きりなんてこの先ここに閉じ込められてもいいからっ!!

ぐぐっとと粘っていたら、

グラッと体が傾いてベットに沈み混んで体の体制がさっきとは逆になる

目の前には眠そうな顔をした先輩

近い距離で呼吸がぶつかる

「…で?」
「へ!?」

さらっと先輩のまっすぐな黒髪が頬にかかる

「何してほしいの?」

甘い声に耳がざわざわする

「え、あのっ、そういうつもりじゃ!」

「他にどんなつもりなの」

「え、あっと、枕投げ?とか??」

「…そんなんじゃ足りない」

スルッとと服のなかに先輩の冷たい手が器用に滑り込んでくる

コツンっとくっつくおでこ

黒い瞳に捕まって、

「今度は気絶しちゃダメだよ?」

楽しげに笑みを浮かべる口元

顔の熱が急激に上がって、頭の血管どっか切れたんじゃないかってくらい自分の体温が上がる

わー!わー!

もうこのまま迎えに来てください、誰か

近い距離に耐えられなくなってきゅっと目をつむった時


「わー、やらかしてる最中だった?」

楽しげな声