何度でも君に好きが届くその瞬間まで


「はああっ」

ほっとしたからか、大きなため息が出る
下を向いていたら、目の前が暗くなる

「大丈夫?」

そっと手を引いて立たせてくれる
さっきまでの怖い先輩はいなくていつもの無表情に戻っていた


「先輩、何でここが、わかったんですか?」

「きみの幼馴染みが、教えてくれた」

「洸君が?」

「羽華の事が心配だから、追いかけてくれないかって、言われた」

どうやら、先輩が帰るときにちょうど掃除をしていた洸君が声をかけてくれたみたい

洸君にお礼言わなきゃなあ

もし、先輩が来てくれていなかったらと思うと背筋が冷たくなった


「それで?」

「え?」


また、少し怖い表情になる先輩

「俺に隠してることあるだろ」

「……はい」

助けてもらって、関係ないですは失礼だよね
それに、月野先輩が関係しているとなると、湊先輩だって気になるよね…

私は全部を先輩に話した
ずいぶん前から視線を感じてたこと、物が無くなってたこと、それを先輩に隠してたことを謝った

すると、


「知ってた」

「え?」

「今日、裕に聞いた」

え、ええ!?
裕先輩、話しちゃったの!

驚いて、なにも言えないでいたら、

「羽華の様子おかしかったし、放課後もあいつと帰るようになって、……来なくなったから」

え、それって

「裕がニヤニヤしてたから、問い詰めたら話したんだよ」

「私の事、気にしてくれてたんですね」

「は?」

思わず嬉しくて笑っていたら、先輩がぎゅっと抱き寄せてくれた

苦しいっ

顔だけ上げて先輩の顔を見ると

「……真っ赤」

「……見んな」


珍しく赤くなっている先輩
ますます嬉しくなってぎゅっと抱きつく
先輩も抱き締め返してくれる


「……また、俺のせいだ、ごめん」

月野先輩のこと?

「違いますよ、先輩はなーんにも悪くないです」

顔を上げれば、切ない顔をしている先輩と目が合う

「私も、月野先輩ときちんとお話しなきゃいけなかったんです」

話そうと思いつつ、月野先輩と話していなかった私も悪い

そっと先輩の頬に触れる

「だから、応援しといてください?」

微笑めば少しだけ先輩の表情も和らぐ

「さ、帰りましょ?送ってくれますか?」

「疲れたから、帰る」

「あ、なんだかまた襲われる気がする」

「勝手に襲われてな」

酷い…やっぱり冷たいよお

少し前を歩いていたら、手に暖かい大きな先輩の手に包まれた

「…先輩は素直じゃないですね?」

「あ、手臭いんだっけ」

「臭くないですっ!」

少し暗くなった帰り道
先輩と並んで歩く道は、いつもより特別に感じる

「先輩、ありがとうございました」

「遅い」

「あ、やっぱりなんでもないです」

「あそ」

「反応してください!冷たくしないで!」

無表情の中に見える優しさ
私だけが知ってたらいいのになあ

好きです

言葉では伝えられなかったけど、何度も心のなかで呟いた