「湊先輩、私、忘れてた訳じゃなくて、朝起きたら、洸君が部屋にいて、」

「……は?」

「それで、バタバタしてたら、いつものバスに乗り遅れちゃって、次のバスが一時間後だったんで、洸君に自転車の後ろ乗せてもらって着いたのがギリギリだったんです」

「あ、そ」

また視線を窓に移す

昨日ぶりの先輩、かっこよすぎる
まじまじと見つめていたら

《キーンコーン、カーン…》

「わっ、私もう行かないとっ」

菜留が洸君のこと止めてくれるって言ってたけど、きっと、私の事探すよね?

急いで戻って教室にいなくちゃ

「じゃあ、先輩、えっと、」

次いつ来れるかな?
明日もあの調子じゃ、屋上行けるかどうか
放課後もなあ


うーん、とうなだれていたら


「何で、そんな急ぐ?」

「洸君が私の事、わっ、」


いつの間にか近くに来ていた先輩に引っ張られてもとの位置に座り込む


「洸君がそんなに大事なわけ?」

「湊先輩?」

向かい合って座る
先輩は椅子から降り、体育座りして少し足を広げて私を足で囲むようにして座る


前髪で隠れている先輩の顔をそっと覗き込む
先輩も気づいたのか視線を合わせてくれる

近くに先輩の顔
揺れている先輩の目

「あんまり、俺から離れないで」


先輩

私がどんな気持ちで先輩の側にいるか知らないでしょう?

苦しくて、だけどどうしても離れられないんです、きっと、先輩が私を必要としなくなっても


そんな悲しい目で見つめられたら勘違いしちゃいますよ?


「…離れませんよ」

「そう」

「湊先輩しか見えませんよ、こんなことされたら」

「へぇ」

ちゃんと聞いてるのかどうかわからない軽い返事

それでも湊先輩の隣が一番居心地がいい


「……好きです」

漏れてしまった、小さく呟いた声
顔がくっついちゃいそうな距離だから聞こえたはずなのに、何も言ってくれないんだね

そっと離れる


「また、来ますね」

「勝手にしなよ」


ドアを開ける前に先輩の方を見たけど、先輩は窓の外を見ていて目は合わなかった


なるべく早くまた、先輩に会いに来ます


名残惜しいけど、私は洸君のもとへ走った