「湊、話すのか、また」

「ああ」

「それは、羽華ちゃんのため?」

まっすぐな視線を向けられる

羽華が、慌ただしく廊下を走って行った後
裕が珍しく真剣な顔で話しかけてくる

別に良かったんだ

俺が卒業まで、あいつの言うことを聞いていれば、周りがそれで傷つかないから

しょっちゅう、何かしろって言われるわけではないし、俺自身、高校生活で、何かしたいとか無かったから

だけど

あいつとした約束のなかに今は邪魔なものがあるから



『彼女、つくらないでね?』




つくるつもりも、好きなヤツもいなかったからその時は黙って頷いた

他の約束は、

私と話す事、でも他の子達とは話さないこと
一緒に出掛けること


この3つだった



女はめんどくさい

人の外見ばっかり見て、騒ぐし
おまけに中身が腐ってたら、これまた騒ぐ

自分の中身はどうなんだって言いたくなる

女の行動を見てるだけで腹が立つ


だから、彼女なんて、いらねー、て思ってたから、なんだ、そんなことかって




羽華と会うまでは思ってたんだ




「そうだね、羽華のためかもね?」

裕は、自分から聞いてきたくせに驚いた顔をして、でもすぐに嬉しそうに笑う


「何で、うれしそうなの」

「いや、さ、人間らしくなってきたじゃん?王子様?」

別にすぐに付き合おうとか、そんなんじゃない

ただ、毎日変わらずの笑顔で、何度冷たくしても目を見て思いを伝えてくれる、バカに

「ちゃんと、向き合わなきゃね?」

「まあ、困った時は遠慮無く頼ってくださいまし」

隣を楽しそうに歩く裕
こいつにも、迷惑かけたな

「ありがと」

「んー?無気力くんが、やる気出してくれたなら、頑張った甲斐があるってもんよ?」

今度こそちゃんと向き合うから
めんどくさからずに


だけど、まだ羽華の気持ちに答えられるかといったら、違う



「じゃあ、紗夜のことはもういいんだね?」



ああ


ほんとにこいつは俺の事をよく見てる



思い出すだけで吐き気がする


いつまで俺も引きずってんだか



「月野のことだけじゃなくて、紗夜の事もちゃんと気持ち片付けてから向き合えよ」

「ああ」



俺は


今以上に


羽華を傷つけるかもしれないから