いつの間にか、隣にいたはずの先輩は、私の上に覆い被さっていて

「本当に、言わないの?」

「…言いませんよっ」
「ふーん…」


だって、言ったら月野先輩にやられちゃいましたって言ったら傷つくのは先輩なんですよ?

ふんっと顔を背ければ

すーっと首もとを指でなぞられる

「……っ」

「どうした?」

い、意地悪だあ!
ぐっと先輩の腕を掴んでみるけど、手は止まってくれない

首から下へと降りていって、ジャージのチャックに手がかけられる

じーっ、とゆっくりおろされて白いTシャツだけになる


「へー、まだ言わないんだ?」

顔の距離を詰めて真顔で攻めてくる
少し長い先輩の髪、顔にかかった髪を耳に掬い上げる先輩

その仕草に胸がうるさくなる


「ひゃあっ」



熱をもった手がお腹に触れられて、体を反射的に反ってしまう

「逃げないで」


手は背中に回されて、グイッと距離を詰められる、そのまま背中の上の方に移動してきて、プチンと音がする

それと同時に私の限界もきてしまう





「……………っきの、先輩」

「なに?もっかい」

顔の距離が近い位置にある
鼻と鼻が触れてしまう、ギリギリ


じっと先輩の目を見つめて、言ってしまう



「…月野先輩」

「…………」

先輩の目が大きく見開かれる
キシッと、胸が痛むのを感じる


だから、言いたくなかったのに

だけど、




私の想像とは、違う事が起こる




「……早く言ってよ」


低い声

先輩の顔は、悲しいなんて表情じゃなかった






怒ってる





先輩が





一瞬、誰に?と、思う

私に?

頭が、クラクラしてくる
不安な気持ちは、先輩の言葉でなくなる






「…ごめん、俺のせいだっ」



枯れた、声



まるで吐き出された様に



苦しそうな先輩

今、この瞬間まで怒ってたのに


今日の先輩は、表情豊かだなあ


ゆっくりと体を起こしてベットの縁に座る先輩



先輩が、このまま離れてしまう気がして、その背中に私からきゅっと、くっついてみる

先輩の体が固まったのが分かったけど、知らないふりをして、聞く


「どうして、先輩のせいなんですか?」

先輩の、胸の音だけが聞こえる

安心する音

少しの間のあと、きちんと答えてくれる

「…俺が、フラフラしてるから」

んー、いまいち分からない答え

先輩がフラフラしてるのと、月野先輩とどう関係があるのかな?

なんだか、珍しく大人しいので、つい今まで気になっていたことを聞いてしまう




「……先輩は、月野先輩の事が好き、なんですよね?」





これで、うん、って言われたらいよいよ告白はできなくなるなあ




胸がうるさい



思わずぎゅっと、先輩のジャージを握ってしまう

どこにも行かないでと、すがるように




だけど、グイッと離されて、目が合う



泣きそう




目をつぶる










「えっと、なんの話」












はい?






「だ、だから、湊先輩って、月野先輩の事が好きなんですよね?」


「どこ情報、それ」



険しい表情になっていく


私の方こそ聞きたい


「付き合ってたんじゃ…」

「春と?ねーよ、そんなこと」



混乱するんですが

え?じゃあ、私は今まで何にそんなに頭を悩ませていたんでしょう

色々、分からないよ?