「というか、こんなところで油を売っている場合なんですか? いま、警備兵のひとと話していましたよね。早く戻って襲撃に備えたほうがいいんじゃないですか?」

「はい? 襲撃??」

 きょとんと首を傾げるエリアス。だが、フィアナは真剣だ。

 いや。エリアスが武術オンチ(仮)である以上、ここは逆に、引き留めて戻らせないほうがいいのだろうか。しかし、それでは警備兵のひとたちが困るのかもしれない。最悪、宰相エリアス・ルーヴェルトの失踪として、余計な騒ぎになる可能性も……。

 そんなことを考えていると、ふいにエリアスがぽんと手を打った。

「そうだ。フィアナさんも、中に入ってみませんか? 私がご案内します」

「え、いや、ダメでは!?」

 なにせ、警備兵と宰相とが共に警戒に当たらなければならないような何かが、ここでは起きているのだ。街の小娘なんぞ呑気に案内している場合ではないだろうし、そもそも危険に巻き込まれるのはごめんこうむりたい。