(自覚はなし、ですか)

 ゆっくりと食事を終えたエリアスは、丁寧に口元をナプキンで拭いながら、そのように冷静に分析をする。

 たしかに、彼にとってエリアスは間違いなく得体の知れない男だ。そんな男が付き纏っていると知れば、幼馴染の身を案じ、相手の男を警戒するのは当然のことだ。

 だが、先ほどの態度――エリアスが真剣だということには理解を示しつつも、尚も、いや、さらに増した明確な敵意。その根底にあるのが、単なる幼馴染への親愛の情ではないことは明白だろう。

 しかしながら、肝心なその想いに、マルス本人が気づいていない。エリアスの見立てが正しければ、おそらく彼は本気で、「胡散臭いから」という理由だけでエリアスを嫌っているつもりなのだろう。

(現状では敵とは言えない……そう、考えても良いでしょう)

フィアナの母を呼び止め、笑顔で追加のデザートを頼む。その裏側で、エリアスはそう判断した。

 想いが強かろうが、本人に自覚がなければ意味がない。警戒しておくに越したことはないが、今のペースを崩してまで、慌てて対処をしなければならない相手ではないだろう。