先ほどまでとは異なり、どこまでも邪気のないまっすぐな笑みで、エリアスはそう答えた。
だからマルスは、逆に言うべき言葉を見失ってしまった。
「は……? 待て、真剣に?」
「別におかしな話ではないでしょう。いつの世も、人は恋をし、惹かれあうものです。私はあの方に恋をし、ゆくゆくはお付き合いをしたいと考えています」
「いや……ダメだろ」
真顔になって、マルスは首を振る。けれども、対するエリアスは涼しい表情だ。
「駄目とは、なぜですか。先ほどもお伝えしたように、私はいたって真剣です。フィアナさんを傷つけるつもりも、ましてや泣かせるつもりは毛頭ありません」
「だって、あんたは宰相で、フィアナは……!」
「ええ。私は宰相で、彼女は街のお嬢さんです。だからなんですか? 身分違いの恋はいけないと、誰が決めましたか。いつ、そんな法律ができましたか。誰がそんなことを禁じたのですか」
静かだが確固たる意志の籠った声に、マルスは何も言えなくなる。すると、エリアスはふっと小さく笑みを漏らした。


