「ここ最近は、少し立て込んでたんです。隣国に大臣を派遣するにあたって、色々と国内でも調整が必要でしたし。けれども幸か不幸か私が赴くこととなり、結果として上手く話をしてまとめることができました。おかげさまで、しばらくは人間らしい生活を取り戻せそうです」
「そうだったんですか……」
それしか答えられず、フィアナはとりあえず頷いた。
なんというか、こういう話をしていると、本当に目の前にいる男がこの国の宰相なのだと実感する。隣国だとか調整がどうとか、フィアナたち庶民とはまるで違う世界で生きている人物なのだと改めて思い知らされ、なんだか不思議な心地だ。
(いつもあんなんだけど、エリアスさんもお城ではちゃんと『宰相』やってるんだな)
若干失礼な感想ではあるものの、フィアナはそのように感心した。
そして気づいた。今の話を聞いて、マルスのエリアスへの評価も、少しは改善されたかもしれない。そう思って、ちらりとマルスを盗み見たのだが。
(ぜんっぜん、警戒モードのままだった……!)
相変わらず、というよりますます胡散臭そうな目で、エリアスを睨んでいるマルスに、フィアナの胃もきりきり痛んだ。別にふたりに仲良くお喋りしてくれとも思わないが、幼馴染のこの態度が自分を心配してくれるが故と考えると、どうにも気が気でない。


