エリアスは一国の宰相で、自分は街の酒場の娘。普通に考えれば、関わるはずのないふたりだ。エリアスがふたたび店に通うことでもない限り、この先出会うことすらないだろう。

 なぜ胸が痛むのか。胸を締めるこの気持ちはなんだろうか。そこからは敢えて目を逸らしたまま、フィアナは八つ当たりのように小石を蹴る。

 天使だ女神だなんだ、適当なことを言って。散々マイペースにひとのことを振り回しておいて。

「……最後はお別れもなしにさよならなんて。おにーさん、ちょっと勝手すぎるんじゃないですか」



 答えのない月に、そう、ひとり呟いた時だった。