(あああああ、あれはなし!! ただの事故、事故だから!!)

 ぶんぶんと首を振り、耳にこびりついた声を振り払おうとするフィアナ。そんな彼女に、幼馴染は険しい顔を向ける。

「なんだよ、その反応。まさかお前、そいつのことが好きになったなんてことは……」

「ない!! それだけは、私の全誇りにかけて!!!!」

 勢いこんで、フィアナは否定した。そりゃ、外見は格好いいと思う。だが、外見以外があんなにも残念なエリアスのことを好きになるなんて、そんなのはありえない。断じてない!

 顔を真っ赤にして否定するフィアナのことを、尚も疑わしげな表情でマルスが見つめる。ややあって彼は、「まあ、いいや」と肩を竦めた。

「わかってると思うけど、そいつの言うこと、話半分に聞いとけよ。俺はそいつがどんなやつかってのは知らないけど、お貴族さまが庶民の女を遊びでひっかけて、捨てて、なんてのはザラにある話だからな」

「わかってるよ。でも、エリアスさん、あんまりそういうタイプには見えないけどなあ」