けれども、マルスは体質的に酒を受け付けないのだ。父のニースは大層な酒飲みであるのだが、母親が一切酒を飲むことができない。おそらく、その血を受け継いでしまったのだろう。

 そんなわけで、ニースがほぼ毎晩グレダの酒場に顔を出すのに対して、マルスが一緒にくることはない。店に顔を出すとしたら、こうしてパンを持ってきてくれたときか、たまにランチを食べに来たときくらいだ。

 しかし、エリアスがどんな男か、か。改めて問われると、悩ましい質問だ。……考え込んですぐ、今までのあんなことやこんなことが次々に瞼の裏に蘇ってくる。それに盛大に顔をしかめながら、フィアナは慎重に答えた。

「まずね、すごくポジティブ? どれくらいかっていうと、文句や嫌味が通じないくらい。あとは思い込みが激しい? いまだにひとのこと天使だの女神だのいってくるもんね。それから……、褒めるなら顔かな。うん、顔は褒められる。顔だけは」

「なあ、本当にソイツ大丈夫!? なんでおじさんもおばさんも、そいつのことを出入り禁止にしないんだよ!?」

「でも、いいお客さんなんだよ? 安定してお金払ってくれるし、ほかのお客さんともうまくやっているし。そりゃ、ちょっと言動が残念だったり、気持ち悪かったりするけれど、それを差し引いても来てくれたほうが嬉しいくらいだもの」