あれよあれよとカウンター席へと通されたエリアスに、フィアナは詰め寄った。

〝何しに来たんですか!? ていうか、何ですかその恰好!?〟

〝もちろん御礼のご挨拶ですよ! そしてこれは仕事着です。公的立場を私生活に持ち込むことは好まないのですが、私が得体の知れない妙な男ではなく、本物の宰相エリアス・ルーヴェルトだと信頼していただくためには、一度この姿でお目にかかった方がよろしいかと思いまして〟

〝別に疑ってませんでしたし、むしろ宰相なんて立場のひとでも得体が知れないんだなって、そっちの信頼がガタ落ちしてるのですが〟

〝あぁ……っ。あの状況で、私の言葉を信じてくださるとは。私を信頼してくださったのは嬉しいですが、フィアナさんが怪しい輩に騙されてしまわないかが心配です……!〟

 あんたが言うなというセリフをフィアナが間一髪で飲み込むことになったのは、あえて言うまでもないことであろう。

 そんな、フィアナが知る限りいま最もこの町で怪しい男、エリアス・ルーヴェルト。何が困るって、彼は本当に、フィアナを目的にグレダの酒場に通っているらしい。