「政宗くんも知ってるの?」

「あっ」

そういえば、優也には“小春には内緒”だと言われていたことを思い出し、政宗は口をつぐむ。
その黙りに、小春は呆れたため息をついた。

「さてはお兄ちゃんだな。余計なこと言って」

「いや、ごめん、違うよ。たまたま聞いちゃっただけ」

「ふーん、まあ、いいや。ちょっと運動できないだけだから、気にしないで。それよりこれ、忘れ物」

小春は政宗にカードを手渡すと、それは今から行く予備校のICカードで、政宗は目を見開いて驚いた。なかなかに個人情報が詰まっている大事なICカードだ。

「うわっ、ありがとう。危なかった、予備校に入れなくなるとこだった」

「予備校?」

「そう、来年は受験だから、塾で勉強」

「政宗くん頭いいのにもっと勉強するの?」

「そうだね、医学部目指してるから勉強しないと」

「いがくぶって?」

「ん?お医者さんになるために勉強してるの」

「政宗くん、お医者さんになるの?すごい!」

ひときわ無邪気で明るい声を出す小春に、政宗は優しく笑う。そして、少しかがんで小春と同じ高さで目を合わせた。