おうちかいだん

怖い。


凄く怖い。


泣きわめきたいくらいに怖いけど、そんなことをしたら気付かれてしまうんじゃないかと、声を出すことも出来ない。


あまりの恐怖に、喉が凍り付いて声が出せないんじゃないか、息が出来ないんじゃないかと必死に呼吸をする。








ズル……。







ズル……。







何かがこっちに向かっているのは間違いない。


居間とこの部屋は繋がっているけど、廊下から逃げることもできる。


今ならまだ。


でも……一体何がこっちに向かって来ているのかが気になって仕方がない。


怖くてたまらないけど、それは姿がわからない恐怖もあるんじゃないかと、私は顔を寄せていた襖に手をかけた。


力を入れれば襖が開く。


襖が開けば居間が見える。


つまり、そこにいる何かを見ることができる。


見ても何が変わるわけじゃない。


結局逃げなければならないんだ。


そんなことを考えながら、そっと開いた襖。


部屋の真ん中が、廊下から差し込む月明かりに照らされているけれど、音の主の姿は見えない。


それ以外の場所は暗くてわからないというのがその理由だ。


僅かに開いた襖の隙間から、居間の中を注意深く観察していた時だった。












黒く、枯れたような手が、月明かりの場所に現れたのだ。