おうちかいだん

「で、その幽霊だらけの廊下を歩いて、1番奥の怪談を上ったんだよ。そしたらそこに鏡があってよ。三面鏡ってやつ? そこには誰もいないのに、鏡の中に女の人がいるわけ」


「……なんか、ゾクッとしたんだけど。なんで洸希はそんなにハッキリと夢を覚えてるのよ」


アリスの手に力が入る。


ギュッと洸希の手を握ると、勘違いしたのか洸希もギュッギュッと握り返す。


「知らねぇよ。んで、俺はその鏡の前に行くわけよ。すっげー綺麗な人だなと思って見てたら、実はずっと俺を睨み付けててよ、こう言ったんだ」











『リサ、なんであんただけ幸せになってるのよ』












その言葉を聞いた瞬間、アリスの額に汗が噴き出した。


言葉の意味はよくわからない。


だけど、なぜかその言葉が自分に向けられているような気がして。


「気持ち悪い……やめよ、その話」


「お、おお。そうか? まあ、まだ続きがあるんだよ。話さないとスッキリしないから、ちょっとだけ聞いてくれよ」


アリスは怯えていた。


なぜだかわからない恐怖が……ずっと昔から付き纏っているような恐怖が迫っていると、感じずにはいられなかった。


「んでよ、その人が言うわけ。この話をして、怯えたらそいつがリサだ……って。殺しなさいって、俺に言うんだよ。毎晩毎晩、毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩さあ!」


洸希はそう言って、ブレザーのポケットからナイフを取り出した。


手を握られていて逃げられない状況の中で、アリスは夕陽を反射して光るナイフを見詰めることしか出来なかった。









「私は……ただ、普通に生きたかっただけなのに」












その日の空は、いつもよりも赤く染まっていた。






おうちかいだん【完】