目に何か入ったのか、それともただメイクを直そうとしているのかはわからないけれど、私はその行動をジッと見詰めていた。


「……え? 何? なんか、そんなに見詰められると照れるんだけど。藤井さんってノーメイクだよね。すっぴんでそんな綺麗な顔とか反則だわ」


「そう? 矢沢さんの方が綺麗だと思うけど。だからそんなに鏡を見なくてもいいと思うよ」


思わずその透き通るような肌に手を伸ばし、頬を撫でると矢沢さんは驚いて、その手から鏡がスルリと滑り落ちたのだ。


ふわりと床に落下した鏡は、その衝撃でパリンと音を立ててガラスの破片になって辺りに飛び散る。


「……ふ、藤井さんがおかしなことをするから鏡を落としちゃったよ。あーあ、割れちゃったね」


慌てた様子で私の手を払い、鏡を拾おうと手を伸ばした矢沢さん。


割れた鏡を見てため息をつくと、立ち上がって教室の後ろにあるロッカーからほうきとちりとりを取って、床を掃き出した。


「鏡と言えば……昔聞いたことがある話があるんだけど。藤井さんは怖い話って平気だったりする?」


「うん。大丈夫。鏡の怖い話があるの?」


私が尋ねると、矢沢さんはフフッと笑って床を掃く手を止めた。