「う、うおっ! な、なんだ!?」


どうしてこんなことが起こったのかわからない。


私に気を取られていた北島くんは、髪を掴まれて後ろに引っ張られる力に抵抗をする間もなく、仰向けに倒れて、階段を転がり落ちた。


そして……どこからともなく現れた、鎖の先に付いたフック。


鋭い先端のフックが、北島くんの口に突き刺さって。


頭蓋骨を砕き、口を裂いて、宙吊りにしてしまったのだ。


転落の衝撃で、鎖が揺れて北島くんの身体がブラブラと空中遊泳をするかのように動き回る。


その横には……北島くんの話の中に出てきたお母さんが、北島くんと同じように吊るされた状態で私を見ていた。


「……お母さん」


そう呟いた時、私ははっきりとわかった。


話の中に出て来たリサは私で、目の前のお母さんは私のお母さん。


どうして私が自分の名前さえ忘れていたのかはわからないけど、少しずつ思い出してきた。


「瑛二くん……階段で振り返っちゃダメって怪談だったのに、振り返っちゃったんだね。もしもまた会えたなら、その時はちゃんと付き合いましょう。キスだけじゃ、寂しすぎるから」


そう呟いた私は、俯いて階段を下りた。