その瞬間、松田さんの腕が私の身体に回されて、離れられないようにガッチリと固めてキスを続けたのだ。


軽いなんてものじゃない。


それに一瞬でもない。


「ぷはっ! ちょ……松田さん! 約束が……」


「藤井さん藤井さん! ああ、なんて可愛いの。もうずっとこうしていたい。唇がやわらかくて温かくて……ずっとこうしていたいぃぃぃぃイイッ!」


そんなことだろうと思っていたけど、でも私は松田さんとの約束は守ったよね。


だけど松田さんは私との約束を破ったんだ。


でも安心して。


私との約束を破らないようにしてあげるから。


「もうとっくに一瞬は終わってるし、終わったらすぐに友達のところに向かう約束だったよね? 松田さんの話は面白かったよ」


「は? 一体何を……え? あれ?」


目を開けた松田さんは今、自分がどんな状況に置かれているか……理解さえ出来ていないんじゃないかな。


私は柵の内側、松田さんは柵の外側にいて……その足元に床はない。


「そこに私がいると思い込んで話しかけるなんて、松田さんが話してくれた怪談みたいね。友達が待ってるよ。下の階でね。じゃあさようなら」


私がそう言うと、松田さんは不思議そうな顔を私に向けたまま落下して行った。






「ぐぺっ!」







なんて、潰れたような声が途中で聞こえて。


地面に墜落したのだろう。


グチャッと言う音が私の耳に届いた。