彼は腐女子を選んだ

るうさんは、もう少し親身になってくれた。

「黙認……とは言わないけど、面会時間以外に正美ちゃんを見かけても、見なかったことにしてあげて、って言っとくわ。」

と、請け負ってくれた。



効力がどの程度あったかは知らないが、私は面会時間の日参のみならず、昼夜を問わず、病院と家を何度も往復した。


あきらは、日増しに痩せ細り、生きる力を失いつつあった。


***

世間がお盆休みに入った頃から、あきらが、ぼんやりすることが増えた。

私と今、笑っていたのに……突然興味を失い、ぼんやりとして……そのうちに、そのまま眠ってしまうようになってしまった。

意識障害が出始めたということだろうか。


せっかく中村上総が新幹線で駆け付けてくれても、……あきらは、目覚めてくれなかった。


「ずっと、こんな感じ?植物状態ってこと?」

中村上総がつらそうに聞いてきた。


「ずっとじゃないけど、意識を失ってしまったかのように寝てしまうこと、増えてる。……呼吸も、たまに止まって……プハッ!て、息継ぎしてる。」


報告してるだけで、泣けてきた。

ギリギリのところでかろうじて生きているあきらが、不憫でならない。


「そうか。……正美ちゃんも、やつれちゃったね。ちゃんと寝ないと、倒れちゃうよ。」

中村上総はそう言って、私の頬に触れた。


あったかい手だな……。


そういえば、もう、ずいぶんと……あきらの手は冷たいまんま。

血流が悪いんだろうな。


足もほうっておくと、浮腫(むく)んでパンパンになるし。



「……かずさん?正美ちゃんに、手ぇ出さんといてや。」

不意に、あきらの声が聞こえた。


いつ目覚めたのだろう。

あきらの目は確かに私たち2人を捉えていた。


「あきら!」

「あきら~~~。」

ベッドサイドに駆け寄った。



だが、あきらは、言いたいことを言うだけ言ったら気が済んだのか、再び目を閉じてしまった。


「まるで、あきらの魂と追いかけっこしてるみたい。」

そうぼやいたら、中村上総はちょっと笑った。

「つかまえててやって。あきらの魂。……そのうち、身体に戻れなくなってしまっても……魂が、正美ちゃんのそばにいるなら、それはそれでいいんじゃないかな。」

「……そっか。そうね。」


幽霊でも、魂でも、鬼火でも、何でもいい。

あきらのそばにいたい。