彼は腐女子を選んだ

驚いて、あきらの枕元の一番小さなライトをつけた。

あきらは、光をみつめて……、そして、うっ……と唸った。


え?

痛いの!?


「……痛っ……う……薬、切れたんですね?頭。痛いです。追加、お願いします。……くっ……。」

あきらの眉間にぎゅっと皺が寄り、額に汗が滲んだ。


目は開いている。

ライトがついたのも、わかったようだ。


でも、あきらには、私が見えていないらしい。

看護師さんだと勘違いして、痛みを訴えている……。



まだ医療用麻薬はたっぷりあって、あきらの腕から身体に入っているのに……それでも痛むんだ……。



私は、黙ってナースコールを押した。

そして、あきらのベッドに下に潜り込んだ。


すぐに看護師さんが来てくれた。


「どうされましたー?」

「……痛くて、起きました。強い薬、お願いします。」

「んー。そう……ですか。……わかりました。準備してきますね。」


看護師さんは、点滴の針とチューブを確認してから、一旦部屋を出た。



あきらは、痛そうにゴロゴロと身体を動かして、小さく唸っていた。

しばらくして、看護師さんが注射器を持ってやってきた。

点滴に液体を追加したらしい。


「耐えられなくなったら、また呼んでくださいね。……目、また、見えてないみたいですね。どのぐらい、見えます?」


……また?

いつから……。


「……ライトは、わかります。誰かがいる気配もわかります。でも、視界が極端に狭くて、暗くて……看護師さんの顔もわかりません。」


あきらの言葉に、涙が出た。

私がココにいることは、わかってるんだ。

でも、見えない……。


嘘みたい。

昼間は、そんな様子、全然見せないのに……。


「そうですか。わかりました。先生に伝えますね。……明日の面会時間には、また、症状が落ち着いてますよ。あまり心配せんと、寝てくださいね。ライト消しますよ。」

そう言い置いて、看護師さんは出て行った。



病室が再び、真っ暗になった。

しーんと静まりかえった闇の中で……あきらが言葉を発した。

「もしかして、正美ちゃん?いる?」


……バレてた。


私は、ベッドの下から、ごそごそと這い出た。

「よくわかったな。……でも、見えてないんだな。知らなかった。それに、痛がってることも、気づかなかった。……ごめん。私、無理させてたんじゃないか。」