彼は腐女子を選んだ

あきらは、黙って私の手を握っていた。

その手がじっとりと汗ばんでも……あきらは、放そうとしなかった。


……それで、わかったんだ。

あきらの好きなヒト。


うん。

まあ、わかるよ。


るうさん、美人だもんね。

憧れるよね。


……そっかあ……。

気の毒だけど、仕方ないね。


ただ……あきら、失恋で、がっかりしないといいなあ。


不安になって、私もしっかりあきらの手を握った。

いつまでも、離れがたくて……あきらの夕食が運ばれてくるまで、ずっと手を繋いでいた。


***

その夜。

兄上が、私の部屋に乗り込んできた。


「わかってるんやろな?」

突然、そう聞かれた。


「何を?」

あきらの病気のこと……もうすぐ死ぬことだろうとは思ったけれど、一応聞いてみた。


兄上は、顔をしかめた。

「ああ、めんどくさっ。聞いたで。おまえ、あいつの部屋に入り浸りやて?……知らんわけないよな?……いいんか?しんどくならへんか?」


なるほど。

兄上は、これでも、かわいい妹、つまり私を心配してくれているのだ。


ありがたいなあ……と、素直に思った。


「うん。大丈夫。あきらの身体、着実に(むしば)まれてるの、わかってる。……兄上。心配してくれて、ありがとう。」

「……お、おう。」


珍しく素直な私に、兄上は怯んだ。

そして、舌打ちした。



私は、笑顔を作った。

「安心してくれ。私は、ちゃんと処女だ。」

「阿呆か!」


兄上は、ぷんすか怒って、私の部屋を出て行こうとして、立ち止まった。


こちらを見ないまま、兄は言った。

「……看取ってやる気があるなら、そうしてやれ。夜中でも、行ってやれ。……うちの親には、俺が説明しとくから。」


ドキンとした。

兄上の声は全くふざけてなくって、切迫感があった。


「兄上。あきら、まだ2ヶ月ぐらい生きられると思ってたんだが……ヤバいのか?」


煙草を吐き出すように勢い良く息を吐き出してから、兄上は言った。

「かなり悪い。おまえの前では元気にしてるが、薬で痛みを抑えてるそうだ。飯も食えてない。固形物を飲み込めないし、重湯(おもゆ)も吐くそうだ。……時間の問題だろう。おまえも、覚悟しておけ。」

「……嘘……。」



ショックだった。


私の前では、あんなに元気なのに。

すごく楽しそうだし、ずっと笑顔なのに。