彼は腐女子を選んだ

「正美。おまえ、こんなところでまで、なんちゅう話をしてるんや……。」

「あわわわわ。兄上、なんで、ここに。……ああああ。ああああ、あきら。こちら、私の兄だ。……で、婚約者の、るうさん。」


パニくりながらも、私はあきらに紹介した。


あきらは、胸を押さえてまばたきを繰り返し……ようやく口を開いた。

「うん。知ってる。2人とも。主治医じゃないけど、鈴木先生に診てもらうこともあるし。……堀先生は、研修医だったときに……。」

「あ、そうなのか……。」

拍子抜けした。



「いや。俺は知らなかった。……おまえ、処女って言ってたくせに、男がいたのか。」


「兄上!!!」

思わず、兄上に飛びかかった。


「わ!なんだ!おまえ!猿か!」

「……はいはいはい。堀先生。お静かに。ここは病院ですよ。兄妹喧嘩は、お家でやってください。」

るうさんが、冷静に兄上を叱った。


兄上は、頭を掻いて、あきらに会釈をすると、廊下に出て行った。



「兄上、いったい、何しに来たんだ……。」

「……私を心配して、ついてきてくれてるみたい。病棟を回るだけなのにね。」

苦笑していても、るうさんはうれしそうだった。



幸せそうだなあ……。


「と、いうわけで、退職の挨拶に来ました。……でもまさかココに正美ちゃんがいるとは思わなかったわ。」

るうさんは、あきらと私に何度も視線を移した。


……どういう関係か、とか聞きたいんだろうなあ。

まあ、あきらと私じゃ、釣り合わなさすぎて、カレシカノジョとは見えないだろうしなあ。



ちらっと、あきらを見た。

あきらもまた私を見て、首を傾げるような、確認するような仕草をした。


私は、真顔で頷いた。

……あきらの好きなように、言ってくれたらいいよ。


あきらには、過不足なく伝わったらしい。



わざわざ私の手を握ってから、るうさんに笑顔を向けた。

「清い交際してます……って、堀先生にも、よろしくお伝えください。」


るうさんは、小さく息をついてから、がんばって微笑んだ。

「そう。正美ちゃんが側にいてくれるなら、安心ね。……正美ちゃん。杉森くんのこと、よろしくお願いします。……仲良くね。」

「はあ。」


……また、託されてしまった。


いろんなヒトの想いを背負って、私はあきらのそばにいる……。


胸が一杯になった。