彼は腐女子を選んだ

あきらは苦笑した。

「俺が、ラプンツェルなんや。」

「ああ。美しい姫だ。……そうか……そうだな。あきらは健全すぎてBLが想像つかんかってんけど……さっきの中村上総との絡みは、想像の余地があるな。ネコのようで、リバ。ふふふ。」


想像したら、にやけてきた。


クスッと、あきらも微笑んだ。

「……うん。楽しそう。」



不思議だな。

あきらが淋しくないように、いつも楽しく過ごしてほしく、私はそばにいると決めた。

でも正直、私には、あきらを笑わせる芸もトークスキルもない。

どうすればいいのかと思い悩んだりもした。


でもあきらは、私が笑えば、笑うんだな。

……まるで、鏡のようだ。



「ああ、楽しい。一緒にいるだけで、楽しい。」

そう言ったら、あきらは、本当にうれしそうな顔をした。

「ありがとう。でも、ごめんね。」

「何を謝る?」


キョトンとしてる私に、あきらはウィンクをした。


「正美ちゃん、俺に全く興味なかったのに、……巻き込んで、惚れさせて、……これから傷つけるって、わかってるのに……ごめんな。」

「はあ!?今さら?なに?どうせ、確信犯のくせに!」


……好きにならないわけないよなあ。

もう!

あきらは、黙ってほほえむと……私の手をうやうやしくとって、手の甲に、まるでお姫さまにするような優しい口づけをした。


王子様!

リアル王子様!


ひーっ!


ジタバタする私に、あきらは言った。

「……よかった……正美ちゃんの心にも、俺は生き続けるね……。俺、正美ちゃんのことを、心から好きになった。とても幸せだ。ありがとう。」


うわあああっ!

ずるい!ずるいよ、こんなの!


くやしいけど、うれしくって、せつなくって、私も幸せじゃないか!

わああああん!

あきらのばかー!


好きだー!


***

夢のような夏休みが始まった。


結局、毎日毎日、タクシーで病院へ通った。


一応、面会時間はきっちり守った。

13時から18時まで、毎日5時間を、私たちは共に過ごした。


信じられないことだが、この期に及んで、あきらはまだ勉強したがった。


……どこまで勤勉なんだ……。


「脳に巣くった腫瘍に抵抗してる気分。」


そんな風に嘯いて、あきらは私の勉強につきあった。


疲れたら、合間に、いろんな話をした。