彼は腐女子を選んだ

「……ブレスレットを見てたら、こっちのほうがいいって店員さんに言われて……。」


……病気平癒……は、今さら無理でも、心穏やかに過ごしてほしい。

そんな想いがなかったわけではない。


しかし、高校生男子に念珠ってどうなんだろうか……とも思うのだが……。



荒川弓子は、小さく息をついた。

「……そう。……言っとくけど、あきらのお父さんとお母さん、キリスト教徒よ。」

「え。」

「私は、24金の十字架(クルス)のペンダントにしたの。……いつも祈ってるから。」


そう言って、口をつぐんで、じっと私を見つめたその瞳に涙が光っていた。


もしかして、……いや、たぶん、荒川弓子は、あきらの病気を知ってるんだ……。


「……そうか。」

私は、ようやくそうつぶやいてから、小さく頷いた。

「わかった。荒川弓子のクルスも、私の腕輪念珠も、身につけてもらう。……ついでに、神社で御札と御守りももらって来る。」


キッパリそう言ったら、私の目からも涙がポロッと落ちた。

いかん。

慌てて、指で涙を払った。


「あきらの前で、泣かないでよ。堀正美。」

荒川弓子はそう言って、自分も涙を振り払った。

「ああ。泣かない。」

そう約束して、私は苦笑した。



「日本に戻ることも、あるんだろ?……秋までに……。」

「……ジュニアグランプリも、選手権もあるけど……。」


……間に合うかどうかは、わからない……か。


それ以上は、何も言えなかった。


ただ、2人とも、泣かないように……上を向いたり、まばたきを繰り返したりしていた。


***

空港で荒川弓子と分かれ、我々一行は日本へと飛んだ。

地元の駅での解散時、担任の先生がクラス中のみんなが銘々買ってきたあきらへのお土産を回収した。

とても持ちきれない量になったので、先生は幾人かの生徒に手伝いを募って、それぞれに名前を記入してから車に積み込んで行った。

当然のようにお手伝いを名乗りでたのは、岩崎はるな達、クラスのカースト上位の子たちだった。



「堀さん。あきらのことだけど……仕事って、どんな仕事か、聞いてる?」


珍しく、岩崎はるなが私に声をかけてきた。


「いや。知らない。」

わざと素っ気なく答えたら、岩崎はるなはムッとしていた。


怒ってそのまま立ち去ってくれることを期待したのだが……岩崎はるなは、その場を動かず……小声でつぶやいた。