彼は腐女子を選んだ

「ん。カナダに帰る。これ以上練習休んだら、コーチに見捨てられちゃう。」

そう言って、荒川弓子は笑顔を見せた。

「もうすぐ今のコーチとの契約切れるの。どうしようか悩んでたけど、もし日本のコーチにつくことになったら、学校にも登校できると思う。」


……その時には……もう、あきらはこの世にいないかもしれない……。


ついつい考えてしまって、私は何も言えなかった。



ひかりんたちが喜んで盛り上がってるのを、作り笑いをキープして頷いていた。



***

「で、ひかりん、あきらに何買ったの?」

迷いすぎてわけがわからなくなったので、聞いてみた。


「や。ただのクラスメートと、カノジョでは、違いすぎて参考にしたらあかんでしょう。」


目論見は、バレてた……。


ほとほと困ってる私を見かねたらしく、ひかりんも一緒に考えてくれた。

「けっこう高価なブランド品を買ってる子たちもいたけどさ、あきら、ブランド指向でもないし、それよりは、むしろ流行に関係ない長く持てるもののほうがよくない?」


……長く……。

でも、あきらは……。


ついつい、そんな風に考えてしまう。


いかんいかん。

悲観的にならずに、あきらに似合う、価値のあるもの……。



「24金より、ラピスラズリのほうがいいか。」

「……まさみん。振り幅大き過ぎ。ドリアンやエビのだしから、えらいとこ飛んだね。……愛だねー。」


ひかりんに揶揄されても、私は大真面目だった。


(すず)もいいが、定番だから、誰か買ってるだろうし。……ラピスラズリの深い青は、チャラくなくてイイんじゃないか?」
と、ラピスラズリの陳列された高価そうなエリアを回った。


ネクタイピンやカフスからは、敢えて視線をはずした。

今の、あきらに相応しいものにしなきゃ。


……うーむ……。



日本語の達者な美人の店員さんを巻き込み、私は集合時間ギリギリまで粘って選んだ。

待ちくたびれているようだったので、ひかりんたちには先に行ってもらった。



ようやく買い物を終えると、空港へのバスの待つ駐車場へ走らなければならなかった。

息を切らしてバスに乗り込む。


荒川弓子に手招きされたので、隣に座った。

「何、買ったの?」

「……ラピスラズリの……腕輪……念珠……。」

「は?」

荒川弓子は、大きな目を見開いて驚いた。