彼は腐女子を選んだ

「とりあえず、どうぞ。用件は中で聞きます。」

「どうぞどうぞ。……なんか、飲みます?」

ひかりんのもてなしに、荒川弓子は会釈した。

……めっちゃ、かわいかった。

さすが、白銀の妖精。


「ありがとう。お気遣いなく。……うるさくして、ごめんなさい。」

荒川弓子はひかりんに対してそう謝ってから、私に向き合った。

表情がガラッと変わった。


身構えた私に、荒川弓子は言った。

「堀正美さん?杉森あきらに、つきまとわないで欲しいんだけど。」

「……ああ……そういうこと、か。」


ようやく話が見えてきた。

この妖精さんも、あきらが好きなんだな。

さっきのあきらからのラインを思い出して、納得した。


私は、ため息をついてから、荒川弓子に言った。

「つきまとうも何も、あきらがつきあえって言うから、こうなったんやけど。」

「嘘!絶対、嘘!そんなわけないわ!」

荒川弓子は、憤然とそう叫んだ。


「……静かにして。うるさい。……嘘じゃないし。あきらに聞いて。」


話にならない。

私は、スマホに手を伸ばした。



「う……」

小さな声。


振り向くと、荒川弓子は泣いていた。


……えー……。

なんだ、この忙しい子は。



ひかりんがオロオロして、私を見た。


私は、ふたたびため息をついた。

「……怒鳴り込まれるのも迷惑やけど、泣かれるのも、めっちゃ迷惑。……荒川弓子。あんた、あきらの何?元カノか何か?」

「まさみん、ふてぶてしい……」


ひかりんに指摘されるまでもなく、自覚していた。


……だってさ。

どこからどう見ても、かわいらしい銀盤の妖精さんが、泣いて私を罵ってるんだもん。

客観的に見て、私が悪者じゃね?


だったら、役に徹してみようかなーと。



荒川弓子は、鼻をすすってから言った。

「結婚するって約束したもん。婚約者だもん。」



……はいはい。

さすがに、嘘……とは言わないけど、まあ……子供のままごとか、口約束でしかないと理解した。


「……てことは、幼なじみ、て感じ?」


そう聞いたら、荒川弓子は素直にこくりと頷いた。


「なるほど。わかった。……まあ、そういうことなら、あきらと直接、話し合って。」


有無を言わせず、あきらを呼び出した。


スピーカーから呼び出し音が流れる。