何となく、あきらのカノジョの立場になれてきた。


修学旅行では、自由時間にビーチで遊ぶ約束もした。

水着は断固拒否したかったが……ひかりんたちもコスプレだと思ってビキニを買ったと聞いたので、私もパレオ付きを準備した。

なんだかんだ言っても、楽しみになってきた。




そんな、修学旅行の前夜。

あきらからラインで連絡が来た。

<夜分遅くにごめん。今、病院。肺気胸起こしたらしい。深刻な状況じゃないけど、飛行機に乗れへんねんて。修学旅行、行けへん。ごめん。>


……肺気胸……て、肺に穴があいたってことか。

特別に肺疾患をもってなくても、喫煙者や痩せ型の男性に、わりによく起こるみたいだけど……時期が悪かった。

よりによって、海外旅行の前日とは。


かわいそうに。

さすがに気の毒だ。


<しんどくないか?私に謝る必要なんかないで。とにかくゆっくり休んで、養生して。学校には、なんて報告するの?>


口裏を合わせる必要もあるかと、念の為にそう尋ねた。


しかし、あきらからの返信はなかった。

いや、そもそも既読にすらならなかった。


……寝たのだろうか。

まあ、安静にしてくれてるなら、それでいいのだが……。


いいのだが……。

……。


……ああ、もうっ!

心配で、ほっとけるか!


くそっ!


***

翌朝、私はまだ暗いうちに起きて、家を飛び出した。


あきらが食べたがっていたパン屋で、しこたまパンを買うと、自転車で猛ダッシュ!

30分かからずに、あきらの入院する病院に辿り着いた。




夜は明けたものの、まだ6時前だ。

閑散とした病院に潜り込み、呼吸器科に行ってみたが、あきらの名前は見つけられなかった。


それではと、今度は血液腫瘍内科を目指す。

と、個室にあきらの名前を見つけた。



……まだ、寝てるかな?



そーっと、引き戸を明けた。

かすかな機械の音がする。


「あきら?おはよう。しんどい?」


恐る恐る、カーテンを引いた。

機械と管で繋がったまま、あきらは眠っていた。

はだけた胸元から見える骨の浮き立った胸に、涙が出そう。


顔色も、よくない。

当たり前だ。

肺に穴が開いてるんだ。

かわいそうに……。


しばらく見ていたけれど、看護師達が朝の検温に回り始めたらしく、廊下が騒がしくなってきた。

誰かに見つかる前に、帰ろう。


「じゃあ、行ってくる。元気になっててや。」

小声でそうつぶやいて、私は病室を出た。