彼は腐女子を選んだ

いつも一緒に食べているオタクグループの面々にどう言おうか戸惑っていると、あきらは事も無げに言った。

「じゃあ、みんなで食べよう。人数多い方が楽しいやん。」


その言葉に、周囲の子たちも乗っかってきた。


もともと教室の最大勢力を占めていたあきらを中心にしたカースト上位の男女混合グループは、私達オタクのみならず、教室で食べる子達みんなを飲み込み……まるで幼稚園児の遠足のように机と椅子を円形に並べ直して食べることになった。

30人以上が、わいわいと話しながら、それぞれのランチを食べた。



「正美ちゃんのパン、美味しそう。どこで買うて来たん?」

あきらにそう聞かれて、みんなの目が私に集中した。


こわっ。


「……うちの近所のパン屋。美味しいで。早よ行かな売り切れ早いけど。」

「そんなに?……早くって、登校前なら大丈夫やろ?」

「8時は、もう、めぼしいの、売り切れてるかな。」

「え?マジ?」

割と有名店なので、それだけの会話で、知ってる子たちには伝わったらしい。

「うちも土日によく買いに行く。」

「コーヒー無料やし、モーニングがてら食べに行ったことある。」

「お昼に行ったら、マフィンとドーナツしか残ってへんかった。」

などなど、口々にパン屋情報をあきらに伝えた。



興味を持ったらしく、あきらがうらやましそうに私のパンをみていた。


「……今度、買って来てあげようか?」

そう聞いたら、あきらの顔がぱあっと輝いた。


……しかし、これが、まずかった。



「ここのパンも美味しいで。……はい。」

「あげる!食べて。」

「あきら!私のも!」

と、何人ものパン食女子が、お裾分けを理由にあきらに突進した。



もちろんあきらは断ったが、結局押し切られて、いくつものパンを味見することになってしまった。

よせばいいのに、あきらは、律儀にそれらを千切っては食べ、千切っては食べ……


「もう、やめとき。」

見てられず、止めてしまった。


途端に広がる、気まずい空気。

ひそひそと、小さなさざなみのように、私への文句が聞こえてきたけど無視した。


どうしても、悪者になっちゃうなあ。

まあ……仕方ないか。


悪役ついでに、あきらのお弁当から、消化しにくそうな揚げ物を取り上げて食べてやった。



めっちゃ、非難の目を浴びたけど、気にしない!


ふん!


***