彼は腐女子を選んだ

声を落としてるとはいえ、図書室で朝っぱらから何の話をしてるのだろう。

さすがに、恥ずかしくなってきた。


あきらの頬も、少し赤い。


「……まあ……遊んだ時期もあったけど……でも高校入ってからは、いい加減な遊びは、やめた。」

「ふぅん。……女子に囲まれてるのにな。」


あきらの苦笑が、ちょっと淋しかった。


……病気が原因で女遊びをやめたのかな?

何にせよ、気の毒なことだ。


「正美ちゃんとつきあってるって公言したから、みんな、あきらめてくれると思うよ。」

あきらはそう言って、笑顔を見せた。


***

しかし事態はそう甘くはなかった。


予鈴が鳴ってから、私たちは、一緒に教室に戻った。

……まあ、そうなるだろうとは思っていたが……無責任にひやかし騒ぐ男子と、ヒステリックに騒ぎ立て、口々に文句を垂れ流す女子、……泣いてる子もいる。

納得できないと、直接あきらにぶつける子もいた。


まるで動物園のような無秩序な教室に、あきらは呆然としているようだ。



私は、淡々と自分の席についたが、普段は挨拶すらしない子たちに、質問攻めにあった。

「どうやってあきらを落としたん?」

「ほんまにつきあってるの?いつから?」

「あきらの弱みでも握ったの?」


……ずいぶんなことも言われたけれど、私は憮然と言い放った。


「昨日あきらに告られたから、つきあうことにした。詳細は、あきらに聞いてくれ。」


まるで他人事のようだが、私では対応しきれないので、丸投げさせてもらった。


しかし私の返答は、周囲の反感を買ったらしい。


「えらそう」

「なにさま?」

「むかつく」

と、わざわざ聞こえるように悪口を言われ続けた。





授業が始まっても、教室は変な熱を帯び続けていた。

休み時間には、他のクラスからも事実確認に来る人が絶えなかった。


やー、知ってるつもりだったけど……あきらの人気すごいわ。


あきらは、あけすけで失礼な問い合わせに対しても、いちいち笑顔で応対し、その都度、私をカノジョと紹介し続けた。

あからさまに怪訝な目で見られることにも、挑戦的に睨まれることにも、昼休みには、もう慣れた。

人間、どんな環境にも適応するものね。



昼休み、当たり前のように、あきらが私をランチに誘った。