彼は腐女子を選んだ

どう返事しようかとあきらを見て……気づいた。

冗談っぽく言ってるけど、本当に不安だったんだな。


そうか……。

そうだよな。


たぶん、家族や関係者以外に病気のことを話したのは初めてなのだろう。

私が逃げ出したら、そりゃ、つらいよな……。



ごめん……と、心の中で殊勝に謝った。

けど、口から出たのは、ほとんど癖になってしまっている、上から目線な物言い。


「あれだけ女を引き連れて、何言ってるんだか。私はあきらのカノジョなんだろ?安心して、どーんと構えとき。」


……はは。

夕べ、ひかりんは、あきらが私を守ってくれるって言ってたけど、やっぱり私があきらを庇護するほうだわ。


「てか、あきら、意外と束縛するひと?粘着質?……今までのカノジョにも、べったり濡れ落ち葉してたん?」

調子に乗ってそう聞いたら、あきらは顔をしかめた。

「何か酷いこと言われてる気がする。……元カノの話とか、ふつう聞きたくないやろ。」

「そうか?いや、今後のつきあいかたの参考になるかなーと……。」

「ふぅん……。」


意味深な目で、ちろっとあきらが私をねめつけた。

……何か……色気ダダ漏れというか……やらしいというか……。


慌てて否定した。

「あー、いや、そういう意味じゃない。元カノと同じつきあいかたをしてほしいわけじゃないから。むしろ、勘弁。お気遣い無用。無理するな。」

「無理って……。」

あきらが、ぷぷっと笑い出した。

「笑うな。ここは図書室だ。河原じゃない。しーっ。」

昨日のように大笑いされては困る。


でもあきらは、肩を震わせて、引きつけを起こしたように、声を出さずにひーひー笑っていた。


「笑い上戸か。」

「違うってば。正美ちゃんが、いちいちおもしろいから。……あー、おかしい。……心配しなくても、何もしない。そんな元気、もうないし。」

「……そうなのか?……無理して、気を使わなくてもいいけど。私じゃ、色気なさすぎて、その気にもならんだろ。」


自虐のつもりはなかった。

事実を事実として言ったのだが、あきらは真顔で否定した。

「自分を卑下せんとき。正美ちゃんはかわいい。その気にならんわけないやろ。むしろ抑えるのに努力を要するのに。」

「……お世辞はよせ。……てか、あきら、お前、ケダモノだったのか。絶倫くん?……そんなに、遊んで来たん?」