彼は腐女子を選んだ

「いた!正美ちゃん。おはよう。朝から熱心やなぁ。何、読んでるん?」


従者を引き連れた王子様さながらに、キラキラの笑顔を振りまいてあきらがやってきた。


背後の女子たちが、ものすごーく怪訝そうな顔をしている。



「おはよ。ジッド全集。……そっちは、朝から、大変ね。もはや背後霊背負ってるようなもん?」


別に彼女たちに挑戦状を叩きつけたつもりはなかったのだが……私の言葉は反感を買ったらしい。

ムッとして、口々に文句を言い出した彼女たちに、慌ててあきらが言った。

「ここ、図書室やから。用事ないなら、教室帰り。」


不満そうに口をつぐんだ子たちのなかでも目立って綺麗な子が言った。

「じゃあ、あきらも帰ろ?ここで話してたら、また、怒られるわ。」

岩崎はるなさんだ。

明るくて優秀で、華やかな美人さん。

カーストの頂点に君臨する、クラスのボス的な存在だ。

しかもこのボスは、性格も悪くない。


あきらにふさわしいのは、こんな子なんだろうなあ……。



ぼんやりそう思っていたら、突如、あきらに肩を抱き寄せられた。

びっくりした!


あきらは、とびっきりの笑顔で彼女たちに言った。

「俺は、正美ちゃんに会いに来たから。つきあうことにしてん。よろしく。」



ああ……阿鼻叫喚だ……。

彼女たちだけじゃない。

たまたま図書室に居合わせた生徒はもちろん、司書の先生や事務員さんまでが、驚愕の声をあげていた。


しかし、誰一人として、祝福の言葉がないことに、いまさらながら憮然とした。


***

図書室の奥の席に2人で並んで座るとすぐ、あきらがスマホを取り出した。

「昨日、聞くの忘れてた。連絡先教えて。」

「ラインでいい?」


あきらの目がキラッと光った。

「メアドも。Facebookも。Twitterも。インスタも。」

「……いいけどさ。腐ったことしか呟いてへんで。」


うれしそうにせっせと登録するあきらを生暖かく見つめる。


そんな期待されても困るのだが……。


「OK。これでいつでも連絡できる。……教室に正美ちゃんいないからさ……俺、早速逃げられたのかと、焦った。」



逃げる?


……まあ、それに近いかもだが……別に、あきらとの約束から逃げたわけじゃない。

単に、気恥ずかしかっただけだ。