彼は腐女子を選んだ

さすがにひかりんも、私が恥ずかしがってごまかしているとは思わなかったようだ。

『……うん。まさみん、気づいてへんかったけど、あきら、よく、まさみんを見てたで。……オタクが珍しくて見てるんかとも思ってたけど……奇異の目っちゅう感じじゃなかったんよね。』


なるほど。

おもしろがってたのだろう。


いつも楽しそう、ってゆーてたな、そういや。



「そうか。……まあ、からかわれてるわけじゃなさそうなのでな、つきあってみることにした。たぶん明日から、周辺が騒がしくなるだろうが、よろしく頼む。」



イロイロ考えてみたが、やはり一番の問題は、本気であきらに恋してる女子達の嫉妬だろう。

私の役割は、あきらの体調管理よりも、虫除けのほうが大きいのかもしれない。

……もっとも、女子力低すぎの腐ったオタクがあきらの恋人だと言い張ったところで、信じられないだろうし、あきらめきれるものでもないかもしれないけれど。



ひかりんは、ふふふと不敵に笑った。

『あー、楽しみ。うちらを馬鹿にしてたカースト上位女子どもの泣き面が目に浮かぶ。明日は、教室中が阿鼻叫喚よー。』

「……学校中、かもね……。」


考えると憂鬱になってきた。


しゅんとしてると、ひかりんが力強く言った。

『大丈夫!あきらが、ちゃんと守ってくれるって!……あー、楽しみ。』


……うーん。

庇護したげたかったんだけど……その前に、私が守られるのか。


まあ……対等ってことで……いいか……。



……いいのか?



***

翌朝、何となく、いつもより早く登校した。

まだ誰もいない教室に鞄を置いて、すぐに図書室へ向かった。

いつものように、腐趣味全開の読書をする気にもなれず……隠れゲイで有名なジッド先生の全集を手に取った。


そう言えば……と、例の『赤毛のギャバン』を探したけど、まだ書架には戻ってないようだ。


順番待ちしてまで借りて読んだ女子たちの想いに、押し潰されそう。



あー、いかん。

考えると、マジ、しんどくなる。


ジッド先生が年上の美しい従姉への思慕をめでたく実らせて結婚したにも関わらず、妻は抱かずに、男とのただれた性行為に溺れていた異常性も、今の私には響かない。

……いや、大好物には変わりないんだけどね。


せめて始業時間ギリギリまで逃避していたかったのだが……、現実のほうがわざわざ私を迎えに来た。