彼は腐女子を選んだ

「……ところで、なんで、正美ちゃんは、俺のこと名前で呼ばへんの?みんな、あきらって呼んでるのに。」


「呼ぶ機会、なかったし。」


そう答えたら、杉森くんは何度か小さくうなずいた。

そしてあのキラキラ笑顔を作って私に向けた。


「じゃあ、これからは、あきらって呼んでな。」

「……う。努力、する。」

「やった!」


こんなことぐらいで、そんなにうれしそうな顔するんだ。

杉森くん……えーと、あきらって……天性のヒトたらしや。

うらやましいような……しかしこの顔でそりゃぁモテてモテてしょうがないだろうなあ。


なるほどなあ。

リア充にはリア充の苦労もありそうだなと推察した。



****

その夜、珍しくひかりんがライン電話を寄越した。


「はいはい?」

『あきら、なんやて?(こく)られた?つきあう?』

めっちゃテンション高くて、びっくりした。


そのまま電話を切りたくなったけれど、どうせ明日にはクラス中、いや、学校中に知れ渡るだろう。


開き直って、私は言った。

「よくわからんが、つきあうことになった。」

『キャー!やっぱり!!!すごーい!やったー!』

なぜか、ひかりんは大喜びしていた。


「……いいの?……そのぉ……ひかりん、こないだの芸術祭で、杉森くん……えーと、あきらにミーハーしてたやん?」


あくまであのステージだけのミーハーだとは思うが、もし万が一、ひかりんがあきらに惚れてたら、この展開はおもしろくないだろうなあと、ちょっとだけ心配していた。


でもひかりんは、あっけらかんと、とんでもないことを言った。

『私?ないない!あきらが、2.5(次元ミュージカル)に出演して推しキャラを()るなら、投影して惚れるかもやけど。……てか、あきら、ずっと、まさみんのこと好きやったやん?あきらの恋が叶って、うれしいわ。……でも、まさみん、あきらに興味ないのに、よく、OKしたね。ほだされた?流された?……何にせよ、よかったよかった。』


……はあ?

あきらが、私のことを好きやった?


いや、待て。

なんだ?それ。

聞いてないぞ。



「……知らん……何?それ。」

憮然としてる私を、ひかりんが笑った。

『えー、照れ隠し?もう!ウケるー。』

「照れてへんし、おもしろくもないけどな。……ひかりん、何でそう思った?2年で同じクラスになっただけで、今まで全然関わりない、別世界のヒトやで?」