彼は腐女子を選んだ

興味津々ではあったが、一応断った。

「や。私のことはいいから。……確か、杉森くん、ニュータウンのお屋敷街やろ?うちとは方向逆やん。早よ帰り。」


そう言ったら、杉森くんは、改めて私の手をそっと取った。


……なんてゆーか……全然やらしくなくて……まるでお姫さまになったような気がした。


「協力するって、言うてくれたやん。もう、堀さん……いや、正美ちゃんは、俺のカノジョなんやから、遠慮せんといて。……これからは、毎日、送るから。」


杉森くんの瞳が、無駄にキラキラ輝いていた。



……マジか……。


カノジョになるってことは、毎日、このキラキラ攻撃を至近距離で浴びるのか。

冷や汗が出そう。



私は、手を振りほどくと、ぶんぶんとそのまま振り回した。


キョトンとしてる杉森くんを、ちょっと睨み付けた。


「あのねえ。学校では協力するし、なんなら下校もつきあうけど、基本的には私は自転車通学やから。それに今日かて、これから、中央図書館に行きたいの。……タクシーで送ってくれるなら、図書館で下ろして。」


……中央図書館は学校から北へ2㎞だから、うちに寄ってもらうよりはマシだろう。


杉森くんはしばし考えて、渋々うなずいた。

「わかった。じゃあ、自転車じゃない日だけ送らせて。……あ、でも、せっかくやから、俺も、図書館とか一緒に行きたい。つきあってんだからさ、映画とかご飯とかお茶とか……放課後に、普通のデートもしよう。毎日じゃなくていいからさ。」


普通のデート……。

もちろん彼氏いない歴イコール年齢の私には、それが何を意味するのかよくわからない。


ただ、何というか……それって、リア充!?




ふぉっ!

私が、リア充だと!?

何ということだ……。



今更ながら、私は引き受けた役割の意味におののいた。





杉森くんの呼んだタクシーはすぐに来てくれた。

車中、俺も行きたいとゴネ始めたけれど、やっぱり顔色がよくない気がしたので帰れと諭した。

「……じゃあ、今日は帰るけどさ、次に正美ちゃんが図書館に行く日は絶対俺も連れてってや。約束。絶対やで。」

何度も繰り返して、そう請われた。


「はいはい。その時に杉森くんが元気なら、ね。空元気はあかんで。しんどくなければ、ね。」


そう約束したら、杉森くんは私の顔をのぞきこむように首を傾げた。