彼は腐女子を選んだ

いま、いったいどこで何の仕事をしてるんだろう、って。

それって、もしかして……本当は、通院してたのだろうか。




「堀さん?ごめん、突然こんなこと言っても、信じられへんかぁ。」

「いや。信じる。そんな、たちの悪い嘘つく意味ないし。……病名、聞いていい?……もちろん、誰にも言わへんから。」


さっきまでの笑顔も笑い声も、どこかへ吹き飛んでしまった。



杉森くんは、うなずいた。

「ありがとう。堀さんなら、わかってくれるって思ってた。……悪性リンパ腫。去年、発症してん。手術も、抗癌剤治療もしてるんやけど……脳に転移したから、もう、これ以上は何もできひんくなってしもたって。」


私は、思わず目を閉じた。


最悪だ……。

手の施しようのない状態じゃないか。


じゃあ、二学期にもう通学できないというのは……余命宣告済みということか……。



「……大変だったね。誰にも言わず……。しんどい時もあったやろうに。……わかった。協力する。……しんどくなったら恋人モードいちゃいちゃタイムということにして、保健室なり病院なりに連れて行ってやろう。なに、私に任せて!」

突如芽生えた庇護心で、私はそう請け負った。


杉森くんは、苦笑した。

「ほんとに、堀さんは……おもしろいね。……ありがとう。話が早くて、助かる。」

よくよく見れば、その笑顔も、何だか疲れて見えた。


「……ねえ?もしかして、今も、本当は、しんどくない?」


杉森くんの笑顔が、ちょっと歪んだ。

「ん。最近、とみに疲れやすいというか……午後から、だるくなることが多くなったけど……さっき堀さんのおかげで、いっぱい笑って、楽しかったから、大丈夫。」

「大丈夫ちゃうやん。そういうことなら、早く言って。帰ろう。いや、病院行くか?」

私は、慌ててベンチから立ち上がった。


杉森くんが、私の腕をそっと引いた。

……生肌を男に触られることも……たぶん初体験だな。


「慌てなくていいから。座って。タクシー呼ぶからさ、堀さんを送ってから、帰って寝るし。」

杉森くんはそう言って、私を再びベンチに座らせてから、おもむろにスマホを出した。


……タクシー……そうか、杉森くんは、気軽にタクシーを利用するのか……なんか、芸能人っぽいな。

領収書とか、もらうのかな。