彼は腐女子を選んだ

よくわからない状況で、私たちは、お腹を抱えて2人で大笑いした。



しばらくして、目尻の涙を拭いながら、杉森くんが言った。

「まったく……堀さんにはかなわへんわ。」



私もまた涙をはらって、笑いをおさめてから冷静に言った。

「では、正解なのだな。酔狂なやつ。……まじめに、理由を聞こうか。……他に本命がいるの?その子にヤキモチやかせるための当て馬になればいいの?それとも、他の恋人との仲を隠すためのカモフラージュ?相手は、人妻か?……いや、杉森くんなら、相手は芸能人の可能性もあるか……。」


私の仮説は、どこかおかしかったろうか。

杉森くんは再び弾けるように笑い出した。


「……助けて……喘息出そう……苦しい……もう、堀さん……最高!」


「すまない。大丈夫?」


身をよじって悶える杉森くんが、本当に苦しそうで、私は慌てて背中をさすった。


思った以上に、骨がごつごつしていた。

……うらやましいぐらい、細いんだなぁ。




杉森くんは少し咳き込んでいたが、しばらくしたら落ち着いたようだ。


アイスコーヒーで喉を潤してから、杉森くんは言った。

「ありがと。もう、大丈夫。……えーとー、俺、誰ともつきあってへんし、恋人とかいいひんし。……好きな女の子は……そうやなぁ……女の子は、みんな好きやし、みんなに幸せになってほしいけど……それって、恋愛じゃないしなあ。あ、でも、今、一番興味があって、一緒にいたい女の子は、堀さんやねん。せやし、図々しいお願いなんやけど、引き受けてくれたら、うれしいなあって。」

「……はあ?どういうこと?……つきあうふり、するの?ほんまに?……何で?」


どうやら、冗談ではないらしい。


……一番興味があって一緒にいたい……って……リップサービスでも、うれしくなるじゃないか。


言われ慣れないお世辞にそわそわしてきた。




杉森くんは、こともなげに理由を言った。

「俺、もうすぐ死ぬねんて。通学も、たぶん、二学期無理やと思う。せやし、夏休みまででいいから、堀さん、俺とつきあってるってことにしてくれへんかな?」


「……。」


即答できなかった。


嘘をついてるようには、見えなかった。

それに、今、触れた杉森くんの背中……いくら何でも、骨が浮き出て……痩せすぎだとも思った。




何より、少し、気になっていた。

杉森くんは、芸能界のお仕事という理由で欠席や遅刻早退をしてるけど……高校までのほうがメディアに露出多かったよね?