「はい、じゃー次高橋。39ページ5行目、Ifから始まってる文訳してみて」
「はい、えーっと、」


つらつらと流暢に訳を答えるクラスメイトに、

予習して来たのか、偉いなぁ

なんて、頬杖をつきながら思う。
現在5時間目。
皆さん絶賛睡魔と格闘中だが、私はそうにはいかない。
なんせ、小川先生の授業なのだから。


「そう、正解」


…あ
その顔。
その、ふわって効果音がつきそうなくらい柔らかく、朗らかに笑うその顔、好き。

そんなことを思いながら、私は“ここは過去形のまま”とノートに付け足す。

そのまま顔を上げれば、たまたまぱちっとあった先生と私の視線。
それにまたふわっと先生は笑うと、「じゃあ目があったから、岡野」と優しく言った。
慌てて頬杖をやめて「はい」と小さく返事をする。


「次の文、訳してみて」


そのまま文に目を落としてなんとか訳を進めた。
この瞬間、いつもなんだか声が震えそうになる。
それを抑えるために声が高くなって、裏返らないかいつも不安だ。
しかし、先生が見ている手前。
失敗はしないように。
…これまで散々やらかしてきているから、意味は特にないのだけれど。


「___ということです。」


終わった、と少しの安堵感に見舞われ、そのまま顔を上げれば、また私の好きなあの顔。


「うん、ばっちり。正解。」


あ、やっぱり好きだ、だなんて。