「琥珀ー!」
高めのちょっと中性的な声。
その声に僕はドキッとした。
振り返ってみれば、予想通りの人が微笑んでいる。
「瑞希…!」
椅子から立ち上がって、教室の扉へと早足で行く。
オリーブベージュの肩あたりまで伸びた髪と。
長めに揃えられた前髪からは、二重の大きな目が覗く。
色白で、高身長で。可愛くて。
性格も良くて。
自慢でしかない、僕の彼女。
「瑞希、どうしたの?」
「ふふっ、琥珀と話したかっただけ!」
…可愛い。
瑞希の笑顔は癒し効果抜群だと思う。
クラスが違うって思って悲しんだりしたけど…。
これはこれで、嬉しい。
「あ、凪川さんだ。」
「ほんとだ!は〜…やっぱ美人…。いいなぁ…羨ましいわ。」
「…でも、ちょい地味?」
「いやいや、あれがいいんだって。髪型とかすっげーオシャレ。」
「ね!あーゆーの、似合う人って美人ばっかだよ〜…。」
男女4人の、クラスでも目立つグループの声。
少しだけ、聞き耳を立てつつ、彼女を褒められて上機嫌になる。
「……でも、なんで北斗なんかね?」
「だよね〜。なんか、頼りない感じするし。まぁ、性格いいから好きっちゃ好きだけど」
「でも、恋愛まではいかないよねー。」
あ、やっぱり僕の話になった。
美人な人の彼氏というのは、なかなかに注目される。
それが、こんな平凡男子なら尚更。
「………」
「?どうしたの、瑞希」
少しだけ傷つきながら、笑っていると、瑞希か黙った。
ジッ、と一点だけを見ている。
それに気づいた、次の瞬間。
瑞希が教室へと入っていって、話していた男女4人のグループに歩み寄った。
「え、」
「ど、どうしたの、凪川さん」
戸惑った様子の4人。
ガンッ___
蹴られた椅子が軽々と倒れた。
その音で、皆の視線が瑞希に向けられる。
「…琥珀を悪くいうとか…僕が許さないから。」
「っ、!?」
その一言と、瑞希の横顔に動揺するのと同時に体が熱を持っていく。
前髪から覗く目が、睨みながら妖しく輝いて。
口元は弧を描いている。
色気たっぷりの、怒った顔。
可愛い彼女。なのに、かっこいいと思ってしまう。
「ひゃっ…!」
「っ、」
4人は、顔を真っ赤にさせて、ただ、縦に首を振って頷いた。
「僕のものに手を出すのも、傷つけるのも…全部」
《禁止だから》
口パクだったのもハッキリとわかった。
スッキリした様子で戻ってきた瑞希から顔を逸らす。
「僕が守るから、琥珀は僕だけ見てて…?そうじゃないと、やだ」
色気たっぷりの可愛い笑顔も。
今は…。
「……〜っ、カッコよすぎだから…!」
いつか、誰かが言ってたと思う。
『凪川さんは怒らせない方がいい』
って。
だって……。
『カッコよすぎて、やられるよ?』